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金沢工業大学から世界へ。アメリカ本社で唯一の日本人エンジニアとして描く、機械工学の未来

田和 あかりさん

Gleason アプリケーションエンジニア
(北海道出身)
金沢工業大学 工学研究科 機械工学専攻
2025年修了

「やりたいこと」は、学びながら見つければいい

 高校時代の私は、将来の明確な夢をまだ見つけられずにいました。ただ一つ分かっていたのは、「物理がとても好き」だということ。そんな私に、高校の先生が「ものづくりやテクノロジーに直結する、工業系の大学に進んでみたらどうだろう」とアドバイスをくれ、金沢工業大学(KIT)についてはじめて知りました。

 候補として上がった工業大学の中でも、KITは給付型の奨学金制度が非常に充実しており、学生一人ひとりに対する学習・生活のサポート体制が手厚いのが魅力でした。北海道から金沢という遠方への移住であっても、「ここなら安心して、自分の可能性を追究できる」と確信し、受験を決めました。

 いくつかある専攻の中から「機械工学」を選んだ理由は、自動車、航空宇宙、医療機器、ロボットなど、機械工学という学問は、あらゆる産業の基盤であり、広く汎用できると思ったからです。

「やりたいこと」は、学びながら見つければいい

創業160年を越える世界のトップランナー「Gleason(グリーソン社)」との出会い

 私は今、アメリカ・ニューヨーク州ロチェスターに本社を置く「Gleason(グリーソン社)」で、アプリケーションエンジニアとして働いています。

 高校生のみなさんには少し馴染みがない名前かもしれませんが、Gleasonは「スパイラルベベルギア(曲がった歯を持つ傘歯車)」の加工機や、その設計ソフトウェアの分野で世界シェアの頂点に立つグローバル企業です。1865年創業という160年以上の歴史を持ち、創業者のウィリアム・グリーソンが世界初のベベルギア加工機を1874年に発明して以来、世界の産業を支え続けてきました。

 私たちの最大の強みは、歯車の設計ソフトから、超高精度な加工機、そして完成した製品の検査測定機器までを「トータル・ソリューション」として一気通貫で提供できる点にあります。

スパイラルベベルギア
スパイラルベベルギア加工品
歯車の設計ソフトを扱う様子

コロナ禍の葛藤を乗り越え、大学院の「デュアルディグリープログラム」でアメリカへ

 大学時代は、新型コロナウイルスの影響で思うように実習ができない時期もありました。しかし、KITには「研究室体験プログラム」という早期から研究に触れられるシステムがあり、私は森本・林研究室(現・森本研究室)で、早い段階から工作機械の組み立てなどに挑戦させてもらいました。

 本格的な研究室配属後は、「5軸ロボットアームの制御」を研究しました。ロボットの仕組みは非常に複雑で、最初はメカニズムを理解するだけでも一苦労でした。特に、アームを元の位置に戻す際、モーターを逆回転させると「摩擦」のせいでどうしても指定箇所から数ミリのズレが生じてしまう現象があり、その制御アルゴリズムの構築に没頭しました。大変でしたが、それでもやっぱり私は「動くもの」に関わり続けたいと感じていました。

 もともと「在学中に留学したい」という強い思いがありましたが、学部時代はコロナ禍で断念せざるを得ず、進路に悩んでいました。そんな時、大学院に新しく「デュアルディグリープログラム(※2)」がスタートすることを知ったのです。KITとアメリカの提携大学、双方の学位(マスター)を同時に取得できるプログラムを森本先生から教えてもらい、「これだ!」と進学を決意し、ニューヨーク州にある「ロチェスター工科大学(RIT)」を留学先に選びました。

留学、共同研究、そしてインターンから「アメリカ本社唯一の日本人」へ

 留学先のロチェスター工科大学では、大学院生として「スパイラルベベルギアの歯面形状の改善」や「制御ソフトウェアのアップデート」に取り組む中で、同社でのインターンシップの機会を得ることができました。

 パソコンの画面上でシミュレーションしていた研究が、目の前の巨大な最先端加工機として実在し、その機械で作られた歯車が世界の自動車を動かしている!そのダイナミズムにワクワクし、「ここで働きたい!」と心から思いましたし、インターン中に、「うちで働かないかい?」とオファーをいただき、今に至ります。

 現在、Gleason社のアメリカ本社において、私は唯一の日本人エンジニアです。

留学、共同研究、そしてインターンから「アメリカ本社唯一の日本人」へ

 入社1年目から大きなプロジェクトを任せてもらえ、アメリカ国内だけでなく、日本、インド、スウェーデン、トルコなど、世界中のクライアントと仕事をしています。

 最近では、日本の大手自動車メーカー様から「既存の加工機を使って、新しい試作(プロトタイプ)部品を作りたい」というオーダーをいただきました。限られた工具で、いかに効率よく多種多様な試作部品を削り出せるか。国境を越えてクライアントと密にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを成功に導いた瞬間は、大きな自信になりました。

大学での学びは「すべて」繋がっている。仕事の現場で開花するKITの遺伝子

 実際にエンジニアとして働いていると、「大学の講義や実験で学んだことは、何一つ無駄がなかった。すべて繋がっているんだ」と実感する日々です。今でもKIT時代の教科書を見返すことがよくあります。

 例えば、新しい歯車を設計する時――

  • シャフト(軸)にかかる負荷や歪みの計算には、KITで徹底的に叩き込まれた「材料力学」の知識が必要です。
  • 金属を削る際、角度や加工条件を判断するには「加工学」の理論がいきてきます。
  • 歯車の耐久性を高める熱処理の工程では、「材料科学(金属材料学)」の知識が不可欠です。

 トラブルシューティング(不具合の原因追究)の現場でも、学問の基礎があるからこそ「なぜこの不良が起きたのか」を論理的に導き出せます。例えば会社には、制御ソフトすら載っていない40年以上の古い加工機が点検に持ち込まれることがあります。自分が直接担当するわけではないですが、機械の「不変の基礎」をKITで学んでいたからこそ、その構造や仕組みをロジカルに理解できます。

 もちろん、データや知識だけでなく、最後は「人間の経験」がモノを言う世界でもあります。歯車同士が噛み合う接触面(これを「歯あたり」と呼びます)の良し悪しは、最終的にエンジニアが目視で判断します。この職人技のような領域は一朝一夕には身につきません。だからこそ、日々の研鑽に終わりはなく、それも面白いと思えるのです。

機械工学×女性エンジニアという「最高の選択肢」

機械工学×女性エンジニアという「最高の選択肢」

 「機械工学」と聞くと、もしかしたら高校生のみなさん(特に女子生徒のみなさんやその保護者様)は、「作業着を着て、油まみれになって現場で働く男社会」というイメージを持っているかもしれません。

 実際には、現代の機械工学の現場において、特に私のようなアプリケーションエンジニアの仕事は、現場作業よりもオフィスでPCやソフトウェアを駆使するオフィスワークが中心です。

 むしろ私は、機械工学は女性が非常に活躍しやすく、アドバンテージを発揮できる分野だと実感しています。現在、多くのものづくり企業が多様性(ダイバーシティ)を重視し、優秀な女性エンジニアの採用を積極的に進めています。日本ではまだ女性技術者の割合が少ないからこそ、希少価値が高く、しっかりと学問を極めることで自分らしいキャリアや思い描く未来を自力で切り拓いていくことができます。

語学はただのツール、だから「専門性」という武器を持つ

 高校時代の私は、英語が特別得意だったわけではありませんでしたが、「世界を見てみたい!留学したい!」という強い一念があり、留学が決まってからは本当に必死に勉強しました。

 今、アメリカで仕事をしていて感じるのは、「語学は自分の思いを伝えるためのツール(道具)に過ぎない」ということです。

 本当に大切なのは、「その道具を使って、何を話すか」。私の場合、英語ができるからアメリカにいるのではなく、「機械工学という、世界共通の専門知識と技術を持っているから」、アメリカのトップ企業でエンジニアとして認められ、求められていると感じています。

 もしあなたが「グローバルに活躍したい」と願うなら、語学だけを学ぶよりも、「語学×機械工学」のように、自分だけの強力な専門性(武器)を身につけることを強くお勧めします。

ワークライフバランスを叶える、アメリカ流の働き方

 最後に、アメリカでのリアルな暮らしについても少しご紹介します。

 日本の企業との大きな違いは、徹底したワークライフバランスです。こちらでは基本的に残業という概念がなく、残業代もでませんので、効率的に仕事を終わらせて定時に帰ることが美徳とされています。

 私のスケジュールは、朝8時に出社し、夕方16時には退社するというサイクルです。自分の業務が終わっていれば、もっと早くに退社することも許されています。

 会社から歩いて15分ほどの緑豊かな場所に住んでいるので、16時過ぎには帰宅し、そこからは完全にプライベートの自由な時間。オンタリオ湖の近くの美しい自然に癒やされながら、リフレッシュできます。長期休暇も非常に取得しやすく、心身ともに充実した状態で日々の仕事に臨むことができます。

オンタリオ湖河口の夕景
フィンガーレイクスの風景
通勤路の風景

無限の「機械工学」の可能性をKITで掴もう

 機械工学の知識は、世界中のあらゆる業界・分野から必要とされ続けます。

 私自身、高校時代はやりたいことが見つかっていませんでした。それでも、KITの素晴らしい環境と先生方のサポートに導かれ、学びながら、自分の進むべき道をアメリカという最高の舞台で見つけることができました。

 最初から完璧な夢がなくても大丈夫です。金沢工業大学には、あなたの「好き」を世界に通用する「武器」へと育て上げる、すべてが揃っています。ぜひ、このキャンパスから、世界中が求める人材への一歩を踏み出してみてください!

知っておきたい用語解説

アプリケーションエンジニア
開発された機械やソフトウェアを、クライアント(自動車メーカーなど)の要望や工場の環境に合わせて最適化し、導入から技術サポートまでをトータルでコーディネートする専門職(技術のコンサルタント)のこと。
スパイラルベベルギア(曲歯傘歯車)
円錐形(かさ型)の側面に、らせん状(スパイラル)の歯が刻まれた歯車。交差する2つの軸の間で、滑らかかつ強力に回転の向きを変えて動力を伝えることができる。自動車の駆動部やヘリコプターのローターなど、高い負荷と静粛性が求められる最先端の機械に不可欠な最重要パーツ。
5軸(ごじく)ロボットアーム
前後・左右・上下の動き(3軸)に、さらに「ひねり」や「傾き」の回転運動(2軸)を加えた、計5つの自由度を持つロボットの腕。人間の腕のように複雑で柔軟な動きができるため、精密な加工や組み立てに使われる。
材料力学(ざいりょうりきがく)
機械や建造物に力が加わったとき、材料がどのように変形するか、どれくらいの力まで壊れずに耐えられるかを計算・研究する、ものづくりの基礎となる学問。

【保護者の皆様へ】金沢工業大学が誇る「世界直結」の学び

数々の給付型奨学金と全学的な修学サポート
入学時〜低学年。経済的負担を軽減する独自の奨学金制度に加え、基礎科目のつまずきを解消する「数理工教育研究センター」など、学生を孤立させないサポートが充実しています。
先端研究に早期から触れる「研究室体験活動」
通常は4年生から配属される研究室の空気に、低学年から触れられるプログラムです。早期からモノに触れ、実験を繰り返すことで、座学だけでは得られない「エンジニアの勘」を養います。研究室の活動に携わりたい金沢工業大学の学生は、誰でも1年生から触れることが出来ます。
国際基準の学位を掴む「デュアルディグリープログラム」
大学院(工学研究科)。提携する海外の有名大学(ロチェスター工科大学など)に留学し、所定の単位を修めることで、KITの学位と海外大学の学位の「2つの修士号」を同時に取得できる、国内屈指のグローバルプログラムです。

Gleason社ウェブサイト(日本語版) https://www.gleason.com/jp

金沢工業大学工学部機械工学科は、改組により2025年4月から
機械工学科 と 先進機械システム工学科 の
2科体制となりました。
専門性を高めることにより、さらなる工学の発展を目指して躍進してまいります。

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