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「ものづくり嫌い」が切り拓く、工作機械とAI融合の未来

敷村 達也さん

高松機械工業株式会社 技術部 研究開発課 係長
工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程在籍中
(石川県金沢市出身)
金沢工業大学 工学部 機械工学科 2011年卒業、
同大学院 修士課程 2013年修了

やりたいことは、目の前の課題に没頭する中で見つかる

 私は、もともと「ものづくりは面倒くさい」と感じることもあり、決してものづくりが大好きだったわけではありません。

 今でこそ、地元の石川県から世界中の生産現場を支える工作機械メーカー「高松機械工業」の研究開発課で係長を務め、日々最先端の技術と向き合っていますが、高校時代の私は将来の夢は明確に持っていませんでした。

 工業高校に通っていた私は、周りの半分が就職、半分が進学という環境の中で、「進学するならここかな」という、どちらかといえば消去法で金沢工業大学(KIT)の機械工学科への受験を決めました。

 入学してすぐに大きな壁にぶつかりました。普通科高校出身の同級生たちと机を並べると、数学や物理といった基礎教養科目のレベルの高さに圧倒されてしまいました。わからないことがたくさんあったスタートだったので、本当に大変でした。

 それでも心折れずに頑張れたのは、KITの仲間の存在とサポートがあったからです。キャンパスには私のような工業高校出身者もいれば、普通科出身者もいて、本当に多様な学生がいました。わからない基礎科目は得意な普通科出身の学生に教えてもらい、逆に図面の見方や工具の扱いを聞かれたら私が教えていました。

 また、24時間開いている自習室などに集い、仲間と朝まで課題に取り組むこともありました。互いに支え合いながら学び合い、どんな壁も乗り越え、よく遊んだこともよい思い出です。この時に身についた学ぶ姿勢こそが、私の技術者としての原点になりました。KITには、数理工教育研究センターという苦手な科目をいつでも相談できる学習サポート体制も整っていました。そのおかげで、一つずつ苦手を克服していくことができました。

やりたいことは、目の前の課題に没頭する中で見つかる

前例のない新テーマへの挑戦。「正解がない」からこそ育った問題解決のプロセス

 大学4年生になり、加藤研究室の門を叩いてからは、研究の奥深さに触れ、その魅力に惹かれていきました。私が任されたのは「ロータリー加工」という、当時、KIT内で誰も手をつけたことのない研究テーマでした。硬くて削りにくい金属を、工具自体を回転させながらいかに高能率に削るかという挑戦です。

 前例がないため、4月の段階では研究室に専用の工具すらなく、頼れる先輩もいません。「何をしていいかわからない」という状態からのスタートでした。

 まったく新しいテーマへの取り組みは、本当にしんどかったです。しかし、二人一組の相棒と一緒に「とにかくやるしかない」と腹をくくりました。実験をしてはデータと睨めっこし、関連する論文や本、技術資料を読み、先生に相談して指導していただく日々でした。その際、答えを教えてもらえるわけではなく、時には「そこまで言うなら、やってみたら?」と私たちの意見を尊重し、見守ってくださった加藤先生の存在も大きな支えでした。この時に叩き込まれたのが「現状を正しく把握し、仮説を立て、実験によって検証し、その結果を考察して次の仮説へつなげるという研究のプロセス」です。大学を卒業して社会に出た今、どんな困難に直面しても立ち向かうことができるのは、この経験があったからです。

世界の工場を支える、高松機械工業の「自動化」と「省スペース」の技術

世界の工場外観
世界の工場内
世界の工場内

 大学院を修了後、学生時代に共同研究をしていたご縁もあり、高松機械工業株式会社に入社しました。自動車の部品などを超高精度に削り出す「旋盤(せんばん)」を中心とした工作機械を開発・製造しているメーカーです。

 機械を1台販売するだけでなく、自社の複数台の機械を連結させ、ロボットを組み合わせ、加工から洗浄、計測までを自動化した生産ラインを提案できること、そしてそれを極限までコンパクトに収める省スペース設計の技術に最大の強みがあります。

 特に土地が狭い日本やアジアの工場では、機械のサイズをいかに小さくできるかが新規導入や買い替え時には重要となります。例えば、本来なら主軸の横に設置する大きなモーターの位置を、折り返すようにして下側に配置します。そうすることによって、横に設置した場合に比べて省スペースにできるわけです。常に“スペックを上げながら、いかに機械幅を減らすか、そして、価格も抑える”を実現できるように開発チームは日々知恵を絞っています。

世界の工場 作業風景

 入社して最初の1年半は、現場で実際に機械を組み立てる「組み付け」や、お客様の仕様に合わせたテスト加工を徹底的に経験しました。その後、研究開発課に配属されてからは、新機種が世に出る前に加工の性能や精度が目標通り出ているかを評価・分析する役割を担っていました。

 私自身が「世界で最初にその機械を使うユーザー」でもあるため、ユーザーとしての意見を伝えることもあります。例えば、どんなに高性能であったとしても、日々のメンテナンスがしづらければ「使いにくい」と感じられてしまいます。だから、設計担当が先輩であったとしても「これだとメンテナンスがしにくいです!」と正直に伝えると、嫌な顔一つせず、真摯に意見を聞いていただき、“こうしたらどう?”と改善していただけました。

 このように弊社は役職や年齢に関係なく、技術者同士が「良いものを作ろう」という一つの目標に向かって真摯にディスカッションできます。とても風通しの良い会社で、この環境の中で技術者に育ててもらったと感じています。

世界の工場 作業風景

次世代を見据えて、職人の「目」をデジタル化する

 2024年4月、私は会社の全面的なサポートを受け、「博士後期課程(ドクター)」として、再びKIT加藤研究室で学び始めました。現在は週に2日ほど大学に通い、会社の5年、10年先の開発を見据えた最先端の共同研究に挑んでいます。

 現在取り組んでいるのは、「画像処理技術を用いた、切削工具(刃物)の摩耗検知と最適な交換タイミングの自動化」です。

 ものづくりの現場では、金属を削る工具がどれくらい摩耗しているか、どのタイミングで新しい工具に変えるべきかの判断を、あらかじめ実施した試験や日々の状況から加工できる品物の数で決めています。そのため、まだ使用できる工具も再研磨や廃却される場合があります。これをカメラで工具の摩耗具合を監視することで、いつが交換時期かの最適な判断をすることができると考えています。

 しかし、簡単で誰にでもできることなら研究にはなりません。このカメラ画像から数ミクロンの摩耗幅のデータを正確に読み取り、ソフトウェアで解析することで、さまざまなニーズに応えることができます。例えば、「特急で部品が欲しい」「夜間の無人運転中に工具交換をしたくない」「工具交換をまとめてしたい」といったお客様の様々な要求に合わせて、システムが自動で最適な切削条件(削り取る量や削るスピード)を提示できる仕組みを作りたいと考えています。機械工学の基礎の上に、画像処理やデジタル技術を融合させることで、次世代の完全自動化工場を実現することが今の私の目標です。

入学式

「ものづくりが嫌い」だからこそ、人に優しい機械が作れる

 私は決して「ものづくりが大好き」というタイプではありません。だからこそ、使いやすい機械がつくれると思っています。例えば、野菜が苦手な人がカレーを作ると、野菜を小さくし、誰でも食べることができるカレーになります。逆に、野菜が大好きな人が作ると、野菜がごろごろ入ったカレーになり、野菜が苦手な人は食べにくいカレーになると思います。

 機械も同じだと私は思っています。ものづくりを「めんどくさい、もっと楽にしたい」と思っている人間が開発に関わったとしても、ボタンを押すだけで、誰でも簡単に、かつ安全に動かせる「人にやさしい自動化メカニズム」は開発できると思っています。

加工した部品を手に持つ様子

 最初から熱狂的なものづくりへの愛がなくても、全く問題ありません。もし皆さんが進路に迷っているなら、ぜひKITの環境を見てみてください。学会や仕事などで全国の様々な大学へ行くのですが、KITほど最先端の加工機械や実験設備が、当たり前のように揃っている大学を他に見たことがありません。

 最初から完璧な夢や、強い主体性がなくても大丈夫です。私は最初から大学院進学や博士後期課程(ドクター)への進学は考えていませんでしたし、私にそのような能力があったとは家族も含めて思っていませんでした。「成長したい、現状を変えたい」という意欲さえあれば、手厚いサポート体制と最高の設備、そして同じ目線に立って寄り添ってくれる先生たちが、あなたの可能性を世界に通用する武器へと引き上げてくれます。このキャンパスで、皆さんも未来への一歩を踏み出してみてください。

知っておきたい用語解説

工作機械(こうさくきかい)
金属などの材料を削ったり穴を開けたりして、自動車のエンジン部品やスマートフォンの精密パーツなど、あらゆる工業製品の部品を作り出すための「機械を作る機械」。「マザーマシン(母なる機械)」とも呼ばれます。
旋盤(せんばん)
金属や樹脂などの材料を高速で回転させ、刃物(工具)を当てて削る工作機械の一種です。円柱や軸、ねじなど、回転する部品を高い精度で加工することができ、自動車や航空機、家電製品など、さまざまな製品の部品づくりに使われています。
画像処理(がぞうしょり)
カメラで撮影した画像をコンピュータが解析し、形や色、大きさ、傷や摩耗などの状態を自動で判断する技術です。人の目で確認していた作業をコンピュータが行えるようになり、工場での品質検査や自動運転、医療画像の診断など、幅広い分野で活用されています。

KIT(金沢工業大学)のこと

数理工教育研究センター
金沢工業大学が誇る学習サポート施設の一つ。数学、物理、化学などの基礎科目について、授業でわからなかった点や問題の解き方を、専門の教員が個別に丁寧に教えてくれます。工業高校出身者や文系からの進学者でもつまずかないための手厚いサポートが受けられます。

高松機械工業株式会社 https://www.takamaz.co.jp/

金沢工業大学工学部機械工学科は、改組により2025年4月から
機械工学科 と 先進機械システム工学科 の
2科体制となりました。
専門性を高めることにより、さらなる工学の発展を目指して躍進してまいります。

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