
岩田 和男さん
オーエスジー株式会社 製造企画室
製造企画グループ 課長
工学研究科 機械工学専攻 修士課程修了
(岐阜県出身)
背中を押したのは、KITならではの『夢考房』の存在
岐阜県の大自然に囲まれた田舎で育った私は、町工場で働く親の背中や、近所の鉄工所を見ながら育ち、幼い頃からモノづくりの現場が大好きでした。高校時代、地元の進学校に通っており多くの友人が偏差値で大学を選んでいましたが、私は違いました。工業系大学への進路を検討していた際、金沢工業大学(KIT)の学校案内で、学生が自由にかつ主体的にモノづくりに没頭できる『夢考房』の存在を知りました。「ここなら自分のやりたいモノづくりの力をつける事ができるのでは!」と一目で惹かれ、この大学を選びました。そして、大学へ入学するからには、しっかりと学び学科トップの成績で卒業することを目標に掲げたのです。
その決意どおり、大学時代は勉強に一切手抜きをしませんでした。当時仕送りはありましたが少なかったため、夜はアルバイトに励みながら、時には徹夜で実験レポートを書くというハードな日々を送っていました。それでも、KITの厳しくも手厚い環境が私のモチベーションを維持し、学業へと突き動かしてくれました。結果として、目標としていた機械工学科を首席で卒業し、大学院へと進むことができたのです。もちろん、日々の思い出は苦しい事ばかりではなく、仲間たちとたこ焼きを焼きながら飲み会をするなど、楽しい思い出もたくさんあります。

学生時代に無意識に鍛えられていた、エンジニアに必要な「すべてのプロセス」
仕事を行う上で、大学時代に培った最大の財産は「思考の組み立て方」と「チームプレーの重要性」です。KITの実験や実習は本当に大変で、気を抜けば単位を落としてしまうほどの緊張感がありました。当時グループ実習では、ラジコンエンジンの冷却用ヒートシンクを自分たちで企画・設計し、実際に加工してエンジンに取り付け、温度が何度まで下げられるのかを測定しレポートにまとめる、という課題がありました。
私は普通科高校出身だったため、入学当初は機械の触り方もわかりませんでした。しかし、チームメンバーには工業高校出身の頼もしい仲間がおり、「設計やレポート作成は私たちが担当するので、加工はお願いしよう」と役割分担をし、お互いの強みと弱みを補い合いながら、他のチームより1度でも冷やす!という目標に向かって四苦八苦しながら皆でレポートをまとめて行くという経験が思い出として残っています。
社会に出てから気づいたのは、この実習の流れやチームプレーが、まさに企業の仕事の進め方そのものだったということです。【企画、立案、実行(加工)、評価、そして報告】という、エンジニアとして必要なすべての対応プロセスを、私たちは「単位を取らなければならない」という使命感の中で、4年間のうちに無意識に何度もトレーニングされており、若手エンジニアとして働きだした際に仕事の仕方にスムーズに適応できた要因なのだと感じています。この、試験の正解・不正解だけで評価されるのではない、リアルな課題解決カリキュラムこそが、KITの最大の強みだと今でも実感しています。
また、学生の頑張りを後押しするKITのシステムには、本当に助けられました。夢考房だけでなく教育サポートシステムも整っており、苦手な科目を個別に教えてもらうこともできます。工学系では世界最大級の専門図書館の活用もさることながら、365日24時間使える自習室もあるため、夜遅くまで課題に取り組んだり、仲間と議論したりする場所に困ることはありませんでした。現在自分が管理職となった今、あらためて振り返ると、この環境の維持対応は大学としてはコストの観点では大きな費用であり、これらは「学生への投資」だったのだと深く感謝しています。

世界シェアNo.1のOSGとの出会い、そして「特注品」への挑戦
また、学生の頑張りを後押しするKITのシステムには、本当に助けられました。夢考房だけでなく教育サポートシステムも整っており、苦手な科目を個別に教えてもらうこともできます。工学系では世界最大級の専門図書館の活用もさることながら、365日24時間使える自習室もあるため、夜遅くまで課題に取り組んだり、仲間と議論したりする場所に困ることはありませんでした。現在自分が管理職となった今、あらためて振り返ると、この環境の維持対応は大学としてはコストの観点では大きな費用であり、これらは「学生への投資」だったのだと深く感謝しています。
大学院での私の研究テーマは、1mm以下の工具による超高速加工の研究でした。スペース・エネルギー効率に優れた加工設備を実現するため、卓上サイズの工作機械を自ら設計し、フレームを外注して組み立て、簡易加工機を製作して実験を行うという、かなりマニアックな研究です。この時作った機械やCNC(コンピュータ数値制御)化を進めた高精度実証機は、20年経った今でも進化版が大学に残っています。
この研究に使うための特別な工具(エンドミル)を作ってもらった縁が、現在私が勤めている「オーエスジー株式会社(OSG)」との出会いでした。OSGは、創業時の社名である「大沢螺子研削所(Osawa Screw Grinding)」の頭文字をとったもので、グローバル戦略を見据えて1963年に現在の社名へと変更され現在に至ります。

一般の方にはあまり知られていないかもしれませんが、OSGは穴の内側にらせん状のネジの溝を削り出す工具「タップ」の分野で世界シェアNo.1を誇るグローバル企業です。自動車のエンジンからスマートフォン、あらゆる建造物に至るまで、物をボルト(ネジ)で固定するためのネジ穴の多くは、私たちの工具を使って作られています。その精度、加工スピード、製品バリエーション、そして特注品への対応力が評価され、タップだけでなく穴あけの為のドリルやエンドミルも含め、自動車、航空宇宙、重工業、医療機器、半導体など、世界の幅広い産業で採用頂いています。
OSGに入社するきっかけは大学院1年の時に参加した学会発表でした。たまたま当時のOSGの研究部長さんから「OSGを受けてみたらどう?」とお声かけをいただいたことがご縁で面接を受け、内定をいただきました。
入社後、最初に配属されたのはハイス材と呼ばれる硬い焼入れ金属で工具を作る新城工場でした。その工場で実習後任されたのは「特注品担当」――つまり、これまで作られたことのない特殊なオーダー品への対応でした。入社して1年程度の私でしたが、お客様の求める特注品リクエストに対し、「作れるかどうか、作る場合どうやって作ればいいか検討し生産対応する」という、難しくも大きな挑戦の機会を与えてくれました。
ある時、「穴加工後のバリ取り用途の特殊工具がつくれるか」という依頼が届きました。現状の工具はすぐに摩耗して困っているため、OSGの技術で長持ちする工具を作れないかという、お客様からの切実なご相談でした。通常とは全く異なる切れ刃の形をどのように削り出すか。現場のベテラン職人たちも経験したことのない未知の形状に対し、みなで知恵を絞り実際に形にできた時は、この達成感は格別でした。このような様々な特注品の製造対応に技術スタッフとして約10年間携わらせて頂きました。この間、丸棒の切り出しから旋盤加工・フライス加工・熱処理、砥石を使った研削加工まで、製品ができるまでの全工程を様々な工作機械を活用する中で俯瞰して経験できたことは、その後の工具製造における大きな糧となっています。
ドイツの現場で突きつけられた言葉の壁と、技術による証明

その後、超硬エンドミルの製造工場勤務を経て、ドイツにあるグループ拠点工場への赴任辞令を受けました。現在OSGは世界に85社のグループ拠点を持ち、現地のニーズに合わせた迅速な対応を強みとしています。赴任先のドイツにはすでに多くの競合工具メーカーが存在しており、OSGドイツ工場は後発の工具メーカーの位置づけです。我々は「高い品質」・「スピード供給」と「柔軟なカスタマイズ力」を最大の武器として市場を開拓していきました。
私はもともと英語が苦手で、外国語に対して強い劣等感を持っていました。ドイツの工場へ赴任した当初は、ただでさえ苦手な英語にさらにドイツ語での生活であったため、毎日がやっとの状態でした。その当時、現地のドイツ人スタッフから面と向かって「お前はドイツ語も英語も話せないのに、なぜ自分たちより高い給料をもらっているんだ」と、厳しい言葉を投げつけられたこともあります。
しかし、当時海外赴任先の日本人上司から言われていた「言葉は重要ではない、あくまでツール。現場で実力を示せばいい」という言葉を信じ、片言の英語・ドイツ語を駆使しながらモノづくりの行動で示しました。誰よりも早く機械のセットアップをこなし、圧倒的なスピードで精度の高い工具製造するとともに、エンジニアとして生産性改善や品質の安定化などの対応を目の前で示してみせたのです。そういった仕事をしばらくすると、彼らの態度は一変し、私をプロとして認めてくれ、相談などをしてくれるようになりました。技術者の世界は徹底した実力主義ですが、一度技術者同士として認め合えば、そこからは最高の仲間になれます。先程の赴任当時厳しい言葉を発したスタッフは実は同級生で今ではよい友人です。今でも時折出張でドイツ工場に訪問する機会がありますが、その際は昨日までいたかのようなアットホームな雰囲気で迎えてくれるのは仲間として認めてくれた証だと今では思っています。
世界で活躍するためには、もちろん語学力があるに越したことはありません。しかし、それ以上にエンジニアに求められるのは「本物の技術力」です。海外のスタッフに物怖じしない気持ちと確かな技術さえあれば、世界中のどこに行っても対等に仕事ができると確信しています。
このドイツ駐在中で最も印象に残っているのは、世界的な自動車部品メーカーである「Bosch(ボッシュ)」の優先サプライヤーとして、名だたるドイツの現地工具メーカーがある中で当社が認定されたことです。最高の成果を、国境を越えたチーム全員で掴み取ることができました。

0から1を生み出すのは人間。限界を超えるチャレンジをKITから始めよう
ドイツ赴任から帰国し、製造技術にて勤務したのち現在は製造企画室の課長として国内外のグループ拠点の生産支援や技術開発支援などの活動を行っています。日本と海外の大きな違いは「人の流動性」です。終身雇用が未だ一般的な日本と異なり、海外のスタッフはより良い条件があればすぐに転職していきます。そのため、作業者が定着する日本のやり方をそのまま海外へ持って行っても通用しません。だからこそ、今後はより一層、文化や雇用のスタイルが異なる現地スタッフと共にモノづくりを行う上で、「誰がやっても確実に高品質な製品を作り上げられる仕組み」を構築していく必要があります。それぞれの国の文化や多様性を理解し、組織を動かしていく力こそが、今の時代に求められる「グローバル人材」の本質だと考えています。

今、OSGが中期経営計画として掲げているテーマは「Beyond the Limit(限界を超えろ)」です。このテーマには経営計画としての意味合いもありますが、従業員スタッフ一人一人に対してのメッセージでもあります。失敗を恐れずにチャレンジすること。そして、うまくいかなかった時にはなぜ失敗したのかを見極め、本質を見抜き、次の手を考え抜くこと。こういった学び続け、挑み続けられる人こそが、OSGだけではなく、これからの時代に求められる人材です。そして、そのマインドの土台は間違いなくKITで培われたものです。
また、先代の大沢輝秀会長のお言葉に「世界でチャンバラしてこい」というものがあります。チャンバラとは刀で斬り合う意味ですが、私はこれを「恐れることなく、世界を舞台に挑戦してこい」という意味だと捉えています。世界には多様な文化があり、実力がシビアに問われる場面ばかりです。そこで成果を出し続けることは、まさに挑戦の連続です。近年ではAIの活用が求められていますが、AIは今ある情報を基に最適化・効率化を図る事には長けているのは事実です。しかし、ものづくりにおいて0から1を生み出すのは人間だけです。人にしかできない新たな発想や技術を生み出す人材が今求められていると感じています。
KITには、他の大学では見られないような高いレベルの最先端設備と、やる気がある学生を絶対に置いてきぼりにしない手厚い教育サポートシステム、そして学生と同じ目線で向き合ってくれる先生方が揃っています。現在在学している方はもちろん、KITに興味をもち進学を検討されている学生の皆さんは、大学での失敗を恐れる必要はまったくありません。正解は一つではないのです。できない理由を探すのではなく、まずはやってみる。そして、もし転んでもタダでは起きないくらいのメンタリティを持てば、学生生活はもちろん、卒業後のどんな現場でも、グローバルな舞台でも必ずやっていけます。ぜひ、KITの最高の教育環境を使い倒し、世界を舞台に真剣勝負ができる「本物のエンジニア」を目指して、第一歩を踏み出してください。

知っておきたい用語解説
- タップ(ねじ切り工具)
- 金属の穴の内側にネジの溝を削り出すための工具。自動車、飛行機、スマートフォンにいたるまで、あらゆる工業製品をボルトで固定するために、ものづくりの現場に欠かせない。OSGはこの分野における世界トップシェアを誇る。
- エンドミル
- 工作機械に取り付け、回転させて金属や硬質樹脂などをさまざまな形状に加工する切削工具のこと。OSGは業界一を誇る豊富な品揃えで、クライアントのあらゆるニーズに応える高精度エンドミルを提供している。
KIT(金沢工業大学)のこと
- 夢考房(YUMEKOBO)
- 金沢工業大学を象徴するものづくり支援施設。学科の枠を超えて、学生がアイデアを形にするために自由に利用できる工作スペースであり、ソーラーカーやロボットなどの学生プロジェクトの拠点でもある。工具の使い方から最先端の加工まで、専門スタッフが常駐してサポートしている。学生たちは安全講習や技能講習を受講してライセンスを取得することで、様々な機械を利用できるようになる。
- 自習室
- 金沢工業大学 扇が丘キャンパス(7号館1階)には、365日24時間利用できる自習室が設置されている。合計220席(少人数学習席136席、グループ学習席84席)あり、個人での集中学習はもちろん、プロジェクト学習や仲間同士でのグループ討議など、チームでの学習にも活用できるよう設計されている。
オーエスジー株式会社 https://www.osg.co.jp/


