計算機シミュレーションによる超低磁場MRIの原理 その3

実信号と複素信号

一般的なMRI装置では検出したMR信号を直交検波器(QPD:Quadrature Phase Detector)に通して実部信号と虚部信号からなる複素信号をk空間信号とする。

QPDの回路構成

虚部信号を持たない実数信号の場合、そのフーリエ変換は正と負の周波数成分を持つ。したがって、フーリエ変換を行った場合負の周波数成分が折り重なり、ナイキスト周波数を境に線対称のスペクトルとなる。例として、50Hzと200Hzの正弦波の合成波(振幅比2:1)を256Hzでサンプリングしたときの波形とスペクトルを示す。図中の赤矢印が正の周波数成分、青矢印が負の周波数成分を示し、2つの周波数成分に対して4つのスペクトルピークが生じる。正の周波数成分と負の周波数成分が重ならないようにするためにはスペクトルの最高周波数をサンプリング周波数の半分以下にする必要がある。


実信号のフーリエ変換

これに対して複素信号の場合、そのフーリエ変換は負の周波数成分を持たないため重なり合いが生じない。青い波形が実部信号、赤い波形が虚部信号を示し、実部信号は上述の実数信号と同じである。このときのフーリエ変換は負の周波数成分を持たないため2つのスペクトルピークしか生じない。


複素信号のフーリエ変換

再構成画像の違い

実k空間信号と複素k空間信号とによる再構成画像の違いを示す。磁化分布画像として頭部スライス画像を用い、128x128の格子点上の強度値に応じて周波数および位相エンコーディングしたものをk空間信号とした。虚部信号は実部信号を90度位相を遅らせたものである。実k空間信号のみで画像再構成を行った場合、先に述べたように負の周波数成分があるため2つの画像が出現する。本例ではその一部が重なりあっている。重なりをなくすためにはk空間信号の最高周波数を下げる、すなわち空間分解能を下げる必要がある。これに対して複素k空間信号による再構成画像は負の周波数成分が発生しないため画像は1つのみである。したがって、複素k空間信号の方がフーリエ空間上の点を最大限利用できる。

実k空間と複素k空間の再構成画像の違い

実部信号と虚部信号のバランスが与える影響

理想的には実部信号に対して虚部信号は大きさが同じで、位相が90度遅れたものである。例えば直交検波器の不調で、両者の大きさが異なったり、位相遅れが90度でない場合はどうなるか? まず一次元波形で検討する。下図は大きさが異なる場合で、虚部信号が実部信号の半分の大きさである。矢印で示した負の周波数成分が出現する。


実部と虚部の強度が異なる場合

同様に虚部信号の位相遅れが90度ではなく120度の場合を示す。この場合も矢印で示した負の周波数成分が出現する。


実部と虚部の位相差が90度でない場合

一次元波形の例で予測されるように、k空間の実部信号と虚部信号のバランスに誤差が生じたゴーストが生じる。下図に例を示す。


実部と虚部のアンバランスが与える再構成画像への影響

つづく