Research Works of Graduate Student
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修士課程(工学)研究業績


準天頂衛星みちびきの補完信号を用いた測位評価

平成27年度

関口 直朗

GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位は、人々の生活に欠かせない技術として広く利活用されている。現在、我々が主に利用している測位衛星は米国のGPS であるが、その他にロシアのGLONASSや欧州のGALILEO、中国では北斗(Beidou・Compass)、日本の準天頂衛星がある。しかし日本では山陰やビル陰などの影響で、当該地域において衛星測位に必要な4機の視野を確保することは困難である。そこで日本政府は2010年に準天頂衛星(Quasi-Zenith Satellite:QZS)初号機みちびきを打ち上げた。準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite system:QZSS)は日本が整備する日本のための衛星測位システムである。QZSSは日本における衛星を使用した位置情報取得サービスの高精度化や信頼性の向上及び、安否情報などの配信が目的である。みちびきにはGNSSの補強機能と補完機能があるが、現時点では、単独で機能するものではなく、米国において打ち上げ・運用が行われているGPSなどと連携してその役割を果たしている。QZSは2018年を目途に4機体制なり、4機打ち上げられることで、日本の天頂に常時1機のQZSが滞在することが可能になり、測位可能場所・時間率が大幅に向上することが期待されている。
 実験は平成27年4月より行った。QZSが4機体制となった場合を想定し、仰角が75度以上の時間帯に実験を行うこととした。実験場所は金沢工業大学3号館屋上である。屋上で実験を行うことでマルチパスやサイクルスリップなどの他の誤差要因を排除しつつQZSの補完効果を検証した。実験は1回につきJAVAD TR_G3T ALPHAを2機設置し、2時間の定点観測である。取得したデータをRTKLIBを用いて使用衛星を選択しつつ衛星測位を行う仰角マスク処理を行うことで、QZSによる補完効果の確認を行った。 仰角マスク処理を行ったGPS測位及びQZSを含むGPS測位での測位可能時間率の比較を行うことでQZSの補完効果の検証を行った。比較検証は測位精度と測位時間の2点について行った。測位精度についてQZSを含んだ測位は測位が安定するまでに大きく時間を要する結果が得られた。そのため平均値や標準偏差がGPSのみの測位に比べ不安定な結果が得られた。また測位時間についてはQZSを含むことで大幅な上昇がみられた。その効果はマスク仰角を上げることによりその効果は大きく表れる傾向が得られた。
 本研究ではQZSSの補完信号を使用した測位可能時間の検証を目的とし、GPSにQZSを加えた測位がGPSのみの測位と測位精度、測位時間がどのように影響するのかを検証した。実験場所を屋上に設定し解析ソフトウエアを用いて疑似的に遮蔽環境での測位を行うことにより、遮蔽物などによる誤差要因を考慮する必要のない環境を選択した。そのため様々な誤差要因が考えられる衛星測位において純粋なQZS追加による効果を得ることができた。本論文では準天頂衛星によるGNSS補完効果について述べる。
 本研究では測位精度に関してGPS単独での測位の方が安定した結果が得られた。しかし、それは1セット2時間で行っていたことが影響していることが考えられる。GPS+QZS測位は初期解が安定するまでに多くの時間を要している傾向がみられ、実験時間を長くすることで精度の差は少なくなると考えられる。測位時間に関して、GPS+QZS測位はより多くの時間、測位を行えていることが分かった。またマスク解析を行った場合でもGPS+QZS測位の効果が得ることができたことより、準天頂衛星が天頂に滞在する効果は大きいと考えられる。




北陸地方における準天頂衛星のLEX信号を使用した精度検証実験

平成25年度

白石 宗一郎

現在、位置情報の取得方法としては衛星測位システムが主流となっており、日本をはじめ とする世界各国でGPSが使用されている。しかし、GPSはアメリカの運営している測 位衛星システムであり有事の際に使用することは不可欠であり、現在はGPSを含む、G NSSを使用することなく、生活を行うことは不可能であり、第5番のインフラとして機 能している。そこで、GPSを使用することなく衛星測位を行うことのできる環境を構築 することを目的とし、先進国が中心となり独自のGNSSを配備する動きが広がってい る。日本も例外ではなく、準天頂衛星システムの構築をすべく、初号機であるみちびき を打ち上げた。そこで本研究では基盤地図の即時更新可能性や屋内外シームレス測位への 利用可能性を目的として、準天頂衛星のLEX信号を使用し、北陸地方で実証実験を行 った。本論文はLEX信号を使用した測位の精度を検証したものである。
  LEX信号を使用した測位実験を平成24年に2回、平成25年に1回行った。実証実 験は一般財団法人衛星測位推進センターから機材を借用して行った。実験は移動計測と定 点観測の2種類である。移動観測では車の上部にLEX信号とGPSのアンテナを設置 し、一般的な速度と高速下で計測をおこなった。また定点観測では1つの点で短時間の計 測と4時間を超える長時間計測を行った。実験結果の解析方法として、移動計測は計測と 同時に取得した上方向と進行方向の映像とともに特性の把握を行った。定点観測では既知 点や仮基準点の正確な情報を取得し、当該点に対する誤差や時間ごとの測位結果のばらつ きなどを検証した。
  従来の高精度な位置情報取得手段は受信機とは別に携帯電話が必要であり、計測用の受 信機とは別に基準点を儲けるなどの必要があった。また、受信機は使用する範囲が限られ るなどの制約があった。しかし、本研究で用いるLEX信号は準天頂衛星から発信されて いる信号受信することで、高精度な位置情報を取得する方法であり、受信機のみで計測で きる。しかしながら、現在、準天頂衛星は1機のみの打ち上げであり、使用できる時間は 限られたものとなっている。本研究では限られた時間と機材を使用し、北陸地方ならでは の立地条件下で実験を行い、LEX信号の特性を明らかにし、精度を検証することを目的 とした。




屋内外シームレス測位実現に向けたGNSSとRFIDを用いた位置情報取得方法について

平成23年度

竹内 明香

2007年に地理空間情報活用推進基本法(以下基本法)が施行され、人々が安心して豊かな生活を営むことができる社会を実現する上で、地理空間情報を高度に活用することが極めて重要である。基本法によれば、国や地方自治体は信頼性の高い衛星測位によるサービスを安定的に享受できる環境を整備し、国民の利便性の向上に貢献しなければならないと記載されている。つまり、高度な地理空間情報社会を構築するために必要なことは、即時に正確な位置情報を取得し、その位置に関連した正確な地図情報の表示と提供であるといえる。
  地下街などの屋内空間における活動が一般的な中、屋内における正確な位置情報を入手することが急務となっている。とくに、東日本大震災のような災害時やゲリラ豪雨による浸水時を想定した避難計画策定における人や流入水の動きの検討する際に、屋内空間の情報が乏しいと正確な情報を提供して迅速な救難活動を実施することが難しい。加えて、屋内空間における位置情報の取得方法、取得した情報の整備方法が確立されておらず、屋外と屋内の位置情報格差が顕在化している。前述のような課題を解決し、高度空間情報社会を実現させるためには衛星測位の強化だけではなく、ユビキタスネットワーク技術やITS技術などと連携し、測位技術の開発・実用化の促進が必要である。 本研究では、基本法の制定による高度空間情報社会の実現を促進するために、屋内外シームレス測位の実現に向けて、屋外ではGNSS、屋外ではRFIDを用いて位置情報が取得可能か検証実験を行った。
  まず、屋外においてシームレスに位置情報が取得できるか検証するために、VRS-GPSとパッシブRFIDを用いてシームレス測位を行った。GPSは上空視界が確保できる場所で測位し、上空視界が確保できない場所ではRFIDを用いて位置情報を補完した。連続的に位置情報を取得するために、車椅子にGPS受信機とRFIDリーダを取り付け、金沢工業大学キャンパス内を徒歩で1周した。実験結果により、上空視界が確保されない場所にRFIDタグを設置することで、屋内の位置情報の補完をすることができた。つまり、GPSとRFIDを併用することでシームレス測位が可能であることが確認された。しかし、GPSデータの軌跡とRFIDデータの軌跡が重複された部分が存在した。本手法の実運用を考慮した場合、時間と労力を最小限に抑えるために、重複距離を最小化する方法として準天頂衛星(以下、QZS)の利活用が考えられる。QZSは2010年に打ち上げられた測位衛星で、常に日本上空の天頂に必ず1機が見えるように設計されており、マルチパス・サイクルスリップを解決すると言われている。GPSは時間帯によって高精度に位置情報を取得できないことが多々あるので、今後は屋外測位でQZSの利用が必要となる。そこで、センチメートル級の精度が期待できるQZSのLEX信号を用いて精度検証実験を行う予定であったが、2011年3月11日の東日本大震災の影響で電子基準点の大変動による補正情報の作成が困難になったことから、実験は2012年春(現在のところ3月5日から3月9日)に延期となった。実施予定の検証実験の概要はVRS-GPSとQZSの位置精度の比較である。比較方法は既存基準点における精度検証、移動速度別の精度検証などである。
  次に、屋内でアクティブRFIDを用いて屋内の位置情報の取得を試みた。検証実験では、RSSI(受信感度)とATT(減衰器)によるタグの検知位置を調査した。実験結果は、ATTをHighに設定した場合、リーダから最大1.5mの位置にあるタグを読み取ることができたが、半径1.5mのどの位置にタグが存在するのかまでは確認できず、正確な位置を特定することができなかった。そこで、より高精度な屋内の位置情報を取得するためにアクティブRFIDとパッシブセンサを併用して屋内の位置情報の取得を試みた。まず、室内でセンサが被験者の位置を任意に検知できるかどうか確認した。その結果、センサの検知エリアは歩行速度に関係なく1m以内であった。つまり、アクティブRFIDとパッシブセンサを併用することにより、アクティブRFIDを単独で使用するよりも正確な位置情報を求められることが分かった。
  以上の実験結果を踏まえて、高度空間情報社会の実現を促進させるための有効な手段の1つとして、空間情報技術とRFID技術の融合が必要であることが立証された。最新のRFID技術と空間情報工学を用いることにより、歩行空間の連続性を確保し、いつでも、どこでも、だれでも、安全、安心、快適に位置情報を取得することができる。また、本研究では東日本大震災やLEX信号の不調など予期せぬ事象により本論文にQZSの精度実証実験の結果を載せるまでに至らなかったが、準天頂衛星が4機以上の実運用時代を迎えた場合、ユビキタスな地理空間情報高度活用社会の実現が確実に近づくと考える。




高度空間情報社会実現のためのリアルタイムGISを用いた基盤地図情報の更新と 地域変換パラメータの有効性について

平成20年度

守屋 三登志

平成19年5月30日に地理空間情報活用推進基本法が公布され、基盤地図情報が満たすべき基準が示された。この基盤地図情報では、GISを利活用することにより業務の効率化および経費の削減が期待されている。しかし、基盤地図の整備範囲は広域かつシームレスであるため、その作成・維持には多大な労力と時間が必要になる。また、地図更新に関しても、確立された手法や運用事例はない。
  そのため、基盤地図の更新方法のひとつとして、本研究室が検証してきている「リアルタイムGIS」の活用を提案する。「リアルタイムGIS」とは、高精度で即時性のあるRTK-GPS測位を用いて取得したデータを携帯電話からGISサーバへ送信することで、ベースマップに反映する技術である。
  しかし、リアルタイムGISを用いた基盤地図の更新に関しては、その実用性について検証が行われていない。そのため、地図の更新で用いるRTK-GPS測位データと基盤地図との整合性を検証する必要がある。また、基盤地図情報は世界測地系で作成されるため地方自治体が保有する過去に作成された日本測地系の地図を高精度に重ね合わせるとができない現状にある。奥野亜紀氏(平成18年度修士修了)の研究では座標変換の手法として、国土地理院が無償で提供している変換パラメータ(TKY2JGD)とアフィン変換を用いて地域ごとにパラメータを算出する(高精度地域変換パラメータ)し座標変換を行う2つの手法で検証が行われた。その結果、TKY2JGDを用いて座標変換を行った際に、検証を行った2箇所でズレに特徴があることが明らかになった。さらに、アフィン変換を用いて地域ごとにパラメータを算出する手法を用いて変換を行った結果、1km×1kmの範囲内であれば高精度に座標変換を行うことができることが示された。しかし、TKY2JGDを使用し変換を行った際のズレの特徴が高精度地域変換パラメータの誤差に影響を与える可能性があるということが問題として残った。
  本研究では、検証地域の増加や三角点を用いることでズレの特長を把握することを試みた。また、リアルタイムGISを用いた基盤地図情報の更新の有効性を検証するために、基盤地図情報とVRS-GPS測位結果との整合性に関して検証を行った。
  まず、検証地域ごとにTKY2JGDを使用して日本測地系から世界測地系へ座標変換を行い、GPS観測値(世界測地系)との比較を行った。その結果、地域Aでは回転方向、地域Bでは平行方向、地域Cでは南東方向、地域Dでは南南東のズレの特徴を示した。しかし、地域Eでは基準点の消失や重複の問題があり、ズレの規則性を示さなかった。この結果から、地域ごとのズレの特徴が明確となった。しかし、4箇所のみでは、全体の規則性を把握することが困難であるため金沢市全域の三角点を利用し、ズレの特長を調査した。三角点の座標変換を行った結果、金沢市全域のズレの特徴はほぼ南東方向を示していることが明らかになった。さらに、ズレの特徴に関しては海岸・平野部と山間部に対象地域を分け検証を行った結果、ズレの特徴は海岸・平野部でほぼ南東方向を示し、山間部ではほぼ南南東の方向を示した。次に、研究で使用した検証地域と検証地域付近の三角点とのズレの比較を行った。その結果、検証地域付近の三角点のズレと検証地域のズレが類似していることが明らかとなった。そのため、地域ごとのズレの特徴は、三角点による影響が可能性として挙げられる。
  次に、地域A、B、C、Dでアフィン変換を使用して「高精度地域変換パラメータ」を作成し、世界測地系へ変換した。パラメータの算出地域に適用した結果、高精度に変換を行うことができた。また、パラメータ地域ごとに入れ替えて適応した場合、地域A、B、Cのパラメータでは大きなズレを示したが、地域Dのパラメータでは、地域Aと地域Cを高精度に変換することができた。
  さらに、アフィン変換で求めた「高精度地域変換パラメータ」使用して、自治体の保有する基本図を世界測地系へ座標変換したものと、TKY2JGDを使用して基本図を変換したものと基盤地図情報との整合性の検証を行った。また、基盤地図情報の道路線を、仮想基準点方式を用いたRTK-GPS測位(VRS-GPS)を実施し、整合性を検証した。その結果、地域ごとに算出したパラメータを適用させた結果、地域Bでは高精度に重ね合わせを行うことができたが、その他の地域では、重なり合わなかった。また、地域Dで算出したパラメータを使用し変換を行った結果、こちらも重なり合わなかった。TKY2JGDを使用して変換を行った結果に関しても、地域Bでは高精度に変換を行うことができたが、それ以外の地域では重なり合わなかった。また、VRS-GPSで基盤地図情報の道路線を測量した結果、測量方法や観測状況によりズレが生じる地域もあったが、ほぼ正確に重ね合わせを行うことができた。そのため、今後リアルタイムGISを利用した座標変換方法が有効であるといえる。
  本研究では、三角点を利用した座標変換により金沢市全域のズレの特徴を把握することができた。そのため、今後はズレの特徴が類似する場所での「高精度地域変換パラメータ」の適用について検証を行うことで、広域での変換が可能になると考えられる。しかし、アフィン変換とTKY2JGDを使用し高精度に変換を行うことができる地域に違いがあり変換を行うことができない地域も存在することから、自治体が所有する日本測地系の過去の大縮尺地図を変換する際に、同様の問題が発生する可能性がある。今後は、どの地域でも高精度に変換する方法をさらに検討する必要がある。今後、基盤地図情報の使用する際には、座標変換に関する問題や更新に関する問題が発生すると考えられるため、基本法で示された指針を基にした基盤地図情報の作成や更新、基本図の変換方法などを県レベルで明確に定め、統一した方法による基盤地図の管理体制を整えることが必要であると考えられる。
  リアルタイムGISの実現と高精度地域変換パラメータの作成によって基盤地図情報の更新、有効性の向上が期待できる。





ユニバーサルマップの実現に向けたリアルタイムGISICタグの有効性について

平成19年度

島野 宗太

我が国は高齢化社会にあることから、すべての人々が安全・安心で快適な生活を営むことができる社会形成が求められている。政府はすでに政策として高齢者や障害者のためのバリアフリー設備の設置を急いでいるが、設備が整ったとしても人々が安心かつ安全に目的地まで到達する経路を容易に知ることは難しい。また、平成19530日に地理空間情報活用推進基本法が公布され、今後は高精度位置情報を活用する安全かつ安心な空間情報社会が到来することは間違いない。
 歩行空間のモビリティ確保を目指した情報の収集と提供のために、松田尚子氏(平成15年度金沢工業大学大学院修士課程修了)は、リアルタイムバリアフリー地図更新システムを提案した。研究結果からGPSで取得したデータは、車椅子利用者にとっては十分な精度であったが、RTK-GPSを用いて移動した軌跡をGISに表示した際に、いくつかの場所では軌跡が途切れるという問題を残した。また、著者が提唱するUMを含む大縮尺地図データベースの維持と更新は、多大の労力と時間を必要とする。本研究では、これらの問題点に注目し、国民が上述のように快適な生活を営むことができる社会を実現するために、GISGPSRS3S技術を融合したリアルタイムGISとユビキタス技術の一つであるICタグを用いた大縮尺ユニバーサルマップ(UM)を提案した。リアルタイムGISとは、GPSおよびGISを用いて現場で地図をマッピングするシステムであり、本研究室によって提唱されたものである。例えば、携帯電話とRTK-GPSを用いて即時にデジタルマップを更新することが可能である。UMは測量の基礎を基盤とし、最先端の測量技術である空間情報工学を応用したマップであり、年齢や障害の有無などに関わらず、誰もが利用できることが前提である。さらに、提案した新しい概念(UM)は健常者に限らず高齢者や身体障害者を含むすべてのユーザーが利用可能であるものを目指している。
 GPS測位実験では、連続的に高精度位置情報が取得可能であるか、連続性が確保できない場所はどのような状況であるかなど、GPS信号を受信する空間の特徴を把握することを目的として金沢工業大学キャンパス内で行った。実験は、3種類のGPSRTK-GPSVRS-GPSD-GPS)を用いて測位データを同一環境(衛星数、DOPなど)で比較するために2つのGPS受信機を車椅子に取り付けて、あらかじめ決めたルート(キャンパス内1周)を一定の速度で移動しながらデータ取得を行った。実験結果から、上空視界が確保されている場所では、各々に高精度な位置データが得られた。しかし、天空が確保されない場所に移動した場合、GPSは利用できないこと、天空が回復したとしてもGPS信号再受信のために要する時間の問題などが障害となり、正常に復帰するまでの距離に違いが生じた。
 現状のGPS測位技術のみでは、絶対位置やその他の情報が定常的に受信されない。これらの問題を解決するためにICタグを用いてGPSで取得できない位置情報を補完することを目指した。著者は、連続的な歩行空間経路(位置情報)を確保するために、上空視界が確保されている場所では高精度なGPS測位技術を利用し、GPS衛星から受信ができない場所ではICタグを利用する新しい概念を提案した。
 新しい概念の実現に向けて、本研究ではICタグを用いてシームレスに位置情報を取得することが可能な歩行空間の確保を目的とした基礎的な実証実験を行った。ICタグの設置方法および読み取り率の高い環境を調査、検討するために、ICタグを用いた検証実験を行った。実験方法は、ICタグを直線状に並べて、リーダを取り付けた台車で移動しながらICタグのUID(固有識別子)を認識し、設置場所の材質、ICタグ設置間隔、ICタグの材質・形状・大きさの違いなどによる読み取り率の調査を行った。結果から考察すると、ICタグはできる限り大きく、電波方式の種類に合った加工が求められ、さらに設置場所の環境条件などを考慮してICタグの材質を選択する必要がある。
 本研究では高精度なGPS測位技術とインテリジェント基準点に活用されるようなICタグを用いて位置情報を取得することを提案した。この方法を実現するためには、ICタグを用いたより効率的な基準点の設置方法や管理方法などについて多くの検討が必要であるが、提案する手法により、いつでも、どこでも、誰もが利用できる有益なUMを作成することができると考えられる。また、地理空間情報活用推進基本法の制定と基盤地図情報の整備に相まって、提案したようなUMが空間情報社会において利用しやすくなることは自明である。今後、本研究の応用と更なる進展により、提案したUMが実現した空間情報社会が到来することを期待している。





リアルタイムGIS実現のための大縮尺地図の座標変換について

平成17年度

奥野 亜紀
 全国の自治体では公共工事や地籍調査のためにさまざまな測量を行い、大縮尺の基本図・主題図といった電子地図を利用している。しかし、多くの地方自治体では、これまでに作成してきた電子地図の効率的な更新方法が確立されていない現状がある。特に、各自治体が共有利用している基本図に関しては、地図の作成・更新に3ヶ月から6ヶ月の時間を要しており、業務に支障をきたしている。
 平成14年度をもって国土交通省国土地理院は世界測地系を採用した。また、平成17年度6月には「ネットワーク型RTK-GPSを利用する公共測量作業マニュアル(案)基準点測量」の認証がなされ、GPSの利用可能性が急速に高まってきている。
 筆者らが提案する「リアルタイムGIS」を用いることによって、自治体の保有している大縮尺地図の即時更新が可能であることは実証済みである。「リアルタイムGIS」とは、工事現場等においてRTK-GPS測位によって取得したデータを携帯電話により自治体のサーバに転送し、大縮尺の基本図を即時に更新するシステムのことである。GPSとGISとのデータの流通を円滑に進めるには、自治体の保有する大縮尺地図を日本測地系から世界測地系へ座標変換する必要がある。現状では自治体の保有する地図のほとんどが旧日本測地系であるため、GPSで取得したデータをそのまま利用して更新することができない。
 新旧座標系の位置合わせの問題を解決するために、新井智恵子氏(平成14年度修士修了)は独自に基準点を確保し、図面単位(1図画とその周辺の4図画を含む5図画)で変換パラメータを作成する必要があることを明らかにした。しかし、独自に基準点を設置する際に、座標値の読み取り誤差や現地の確認ミスがあり、座標変換後の精度に大きく影響するということが問題点として残った。
 本研究では、位置情報が明確な土地区画整理によって整備された基準点を利用して基準点を設置し、地域性を考慮した「高精度地域変換パラメータ」を作成した。検証実験は金沢市の2箇所で実施し、パラメータの最適な作成方法とパラメータの適応方法の検討を行った。
 まず、国土地理院が提供する変換ツールを用いて、独自に設置した基準点を世界測地系へ変換したところ、地域によってずれの大きさと向きが大きく異なることが明らかになった。このことにより、新旧測地系を正確に一致させるためには、地域ごとのパラメータが必要であることが明確になった。
 次に、地域A、Bでアフィン変換を使用して「高精度地域変換パラメータ」を作成し、独自に設置した基準点を世界測地系へ変換した。適応地域を広げて座標変換を行った場合、GPS観測値との標準偏差は通常の場合の2倍程度となった。また、AとBを入れ替えてパラメータを適応した場合、標準偏差は通常の4〜5倍になった。
 さらに、アフィン変換で求めた「高精度地域変換パラメータ」使用して、自治体の保有する大縮尺地図を世界測地系へ座標変換した。実証実験から、検証地域の一部では新旧測地系の座標変換を正確に実施することができた。また、VRS-GPS測位結果の整合性も証明できた。しかし、ずれの地域性が極めて複雑であるため、一部の地域においては正確に座標変換することができなかった。この対応策としては、国土地理院により平成16年度から3ヵ年計画で実施されている「都市再生街区基本調査」により整備された基準点を使用することが挙げられる。この調査は全国の人口集中地区で実施されており、調査対象となっている市区町は751にものぼる。街区基準点は200m間隔に設置されており、非常に高密度で高精度なデータである。地元自治体もこの調査の対象となっており、この点を利用することによって地元自治体全域の新旧測地系のずれを高密度に把握することが可能になると考えられる。例えば、回転のずれを含む地域ではより細かく「高精度地域変換パラメータ」を求めたり、広域でほぼ同じ大きさで同じ方向ずれの場合は広域の「高精度地域変換パラメータ」を求めたりするなど、容易に座標変換の計画を立てることができると考えられる。また、近い将来、基準点設置の際にICタグなどを用いた、より効率的な基準点の設置方法や管理方法が確立されることを期待している。




RTK-GPSを用いたリアルタイムバリアフリー地図更新に関する研究

平成15年度

松田 尚子
 本格的な高齢社会を迎えた現在、我が国ではノーマライゼーションの概念のもとに、誰もが住み慣れた地域の中で当然の権利として日常生活や社会活動を行い、可能な限り自立した生活をおくることができる社会が望まれている。現在、公共施設や交通機関などの各分野において、バリアフリー整備が部分的かつ点的に行われている。それらの設備を高齢者や身体に障害をもつ方、妊婦などの移動困難な方が有効的に活用し、自らが選択して自由に外出するには、それらを繋ぐ歩行空間のバリアフリー整備が必要となってくる。バリアフリー整備に加えて、移動困難な方が事前に施設や道路等のバリアフリー情報を地図と関連付けて認識することで、目的地及び目的地に行くまでの行程が安心して移動可能であるかを把握できる。このように、移動困難な方が、初めて通る道でも安全に行動するには、高精度かつ最新のバリアフリー情報が容易に入手できるシステムが必要となる。これまでも一般に、様々なバリアフリー地図は作成されてきた。しかし、情報の収集と地図の作成に多大な時間と労力を要する、地図を紙媒体で作成したために更新が困難などの問題により作成が滞っている例が少なくない。
 そこで、本研究は歩行空間のモビリティ確保を目指した情報の収集と提供のために、リアルタイムバリアフリー地図更新システムを提案した。本研究におけるバリアフリー地図を以下に定義する。まず、地方自治体が保有する電子地図(基本図)上に車椅子が通行可能であった軌跡を表示させる。この際、車椅子にRTK-GPS受信機を取り付けて絶対位置情報(緯度・経度・高さ)の取得を行う。RTK-GPSは(1)高精度な位置情報の取得が可能(2)データの時系列管理が可能(3)リアルタイムなデータ更新が可能(4)測位が簡易的という特徴がある。高精度な測量と円滑なデータ取得や管理・更新を行うために、RTK-GPSを用いる。取得した絶対位置情報からは、2点間の移動距離、傾斜勾配、電動車椅子消費エネルギー等の算出が可能となる。更に、地物の形状を視覚的にイメージしやすいように、移動距離と出発点からの相対的な高さを軸にとった断面図(2次元、3次元)を作成する。上記の属性を持った地図を『高精度な位置情報表示に特化した地図』と称する。小範囲なエリア(例として金沢工業大学キャンパス内)に限定して高精度な位置データ表示に特化した地図を作成した上で、ユーザーが外出する際に必要となる情報(ピクトグラム、現地写真等)を表示させた地図を『バリアフリー地図』とする。加えて、バリアフリー地図の背景に航空写真を用いることで、通行可能な箇所と不可能な箇所を視覚的に明らかにする。
 バリアフリー地図を作成するにあたってはまず、リアルタイムにデータを更新する方法を提案した。更新方法としては鹿田研究室が提唱している「リアルタイムGIS」の概念を用いた。また、RTK-GPS取得データの信憑性を裏付けるために精度検証(水平方向、鉛直方向)を行った。水平方向の精度に関しては許容範囲内であった。しかし、鉛直方向のデータに関しては、固定点で静止して観測したにもかかわらず、変動が予想以上に大きかった。そのため、鉛直方向データの変動の観察、データ分布の観察、最確値を採用した場合の精度検証という過程を経て、データの真値を決定し、その精度検証を行った。更に、鉛直方向データに関して、3種類の補正情報(RTCA、CMR、RTCM)を使用して取得されたデータの標準偏差とレンジを比較することで、使用に最適な補正情報を決定した。また、福祉分野の専門家との協議により、バリアフリー地図に必要な情報や、絶対位置情報の表示方法について検討した上で、バリアフリー地図作成シミュレーションを行った。この際、例として車椅子利用者を対象とした。
 本研究の大きな特徴は、データを取得する車椅子利用者が、GPS受信機を意識せずに道路を通行するだけで高精度な位置データが手軽に測位可能であるという点にある。このことはボランティアによるデータ収集の必要もなく、利用者自らが、日常の生活をおくりながら随時最新のデータを更新できるという簡易さがある。また、移動困難な方は各々の病状や体力に個人差があるため、一般的なバリアフリー地図の作成は困難であり、正確な位置情報にもとづいて得られた情報をもとに、利用者個人が対象箇所を通行可能であるか否かを判断するという視点で作成した。この手法を用いることにより、利用者の身体能力、使用機器やニーズに合わせてオリジナルなバリアフリー地図の作成が可能となる。今日、カメラ付携帯電話やインターネットの普及により、利用者の視点で情報収集、提供を行う行為が容易になってきた。これらの情報技術と本研究で提案した空間情報工学技術を融合させ、位置情報とバリアフリー情報を広く共有することで、移動困難な方が自由にライフプランを設計し、生活クオリティーの向上に繋がることを期待する。また同時に、バリアフリーが成されていない箇所を提案することは、行政にバリアフリー整備の必要性を訴える契機となるであろう。



自治体が保有する大縮尺ディジタル地図の有効利用に関する研究

平成14年度

新井 智恵子
 全国の自治体では大縮尺の図面を用いて、地理情報システム(GIS)を整備する動きが急速に高まってきている。この背景には、全庁型基図の利用により業務の効率化および経費の削減を期待し、さらにデータの共有化により住民へのサービスを向上させるという目的がある。しかし、地図データーベースの維持・更新には多大の労力と時間が必要であり、地図の更新方法には確立された手法も、運用事例も決定的に少ないのが現状である。特に、各自治体が共有利用している基本図に関しては、数年に1回しか更新されず業務に支障をきたしている。  この問題を解決できる技術の1つがGPS(汎地球測位システム)を利用したリアルタイムキネマティック(RTK-GPS)測位である。本研究では、高精度で即時性のあるRTK-GPSを用いて即時にGISの電子地図に反映させる技術の実現について考察した。また、導入により期待できる費用軽減効果についても調査した。従来のGISと区別するため、本研究ではこの技術を「リアルタイムGIS」と定義した。 まず、「リアルタイムGIS」実現のために実証実験をおこなった。これらの実験は平成13年2月に設立された「リアルタイムGIS実証実験コンソーシアム」(産官学の研究会)が主体として実施した。実験では、地元自治体の特に即時性が問われる施設管理部門を例に挙げ計3回のモデル実験を行った。実際の水道管埋設工事現場での実験により、十分実用出来ることが確認できた。 また、RTK測量による1点あたりの測位時間は数十秒程度であり測量作業も1人で実施することが可能であるため、非常に簡単に迅速に地図の更新ができることを実証できた。 導入による費用軽減効果については、自治体、民間測量会社に対する調査より、初期投資を別としてかなりの軽減効果(現在の約55%)が期待されることが分かった。 「リアルタイムGIS」を用い電子地図を即時に更新することが可能になれば、精度のよい位置情報が自治体において全庁的に流通し、常に最新の地図を用いることができる。現状では地図の認定の問題等もあるが、業務の効率化および経費の削減を期待でき、さらにデータの共有化により住民サービスの向上につながる。現時点で業務に使用するには問題が残るが、RTK-GPSは、観測されたデータの精度やGISへ簡単に利用できること、位置情報と時間を合わせ持つことなど利用価値があり観測条件が良好であれば、施設管理台帳作成のための測量には十分対応できる。 一方で、RTK-GPSで取得したデータを自治体が持つ大縮尺基本図に反映させるためには、地図の座標系変換が必須である。国土地理院が提供する変換ツールは、原則として国家基準点を対象としており、面積が狭い一市町村単位での図面区画では変換に必要な点数を確保することは困難である。国内においても基準点が整備されていない自治体がほとんどである。 本研究で検証したような1/500〜1/1000で作成された大縮尺基本図や主題図では、国土地理院が提供する変換プログラムを用いてもGPS観測値と自治体の持つデータの間には無視できない程度の誤差があることが示された。そこで本研究では、RTK-GPSのような即時性の確保できる方法で更新するために必要な既存ディジタル地図の簡易的な変換方法についての手法を提唱し考察した。 まず、一市町村単位で座標変換する方法を試みたが、正確に変換することができずGPS測位結果を正確に反映できなかった。この原因には、変換対象範囲が広すぎまた、自治体が保有する公共基準点では必要な基準点の確保が困難であることが挙げられた。そこで本研究では、独自に基準点を確保し図面単位で変換パラメータを作成することにより、施設管理台帳の水平位置精度を許容できる範囲で正確に変換することができた。この作成されたパラメータを「高精度地域パラメータ」と称した。 測地成果2000による測地系の変化により、GPSとGISとのデータの流通が円滑に進み、GPSとGISの連携が急速に進展してきている。そのため自治体が保有する既存地図を今後有効利用するためには、世界測地系への正確な変換が必要不可欠である。本研究で提案した「リアルタイムGIS」に関しても、GPSとGISさらに高解像度衛星に代表されるRS技術の連携により、より利用価値が高くなるであろう。この技術は、基盤整理、ハードウェア、ソフトウェアに支えられた新しい技術であるため、今後の改良が必要である。位置情報技術の急速な発展により今後GPSにより作成されたデータが地図作成にかかわらず、様々な方面で利用されるようになれば、相乗的に技術の発展が見込まれる。



空間情報工学を利用した海岸線の生態環境変動の調査に関する研究

平成13年度

児玉 哲也
1997年1月に発生した「ナホトカ号重油流出事故」は日本海側の海岸に多くの重油を漂着させ、海岸に生息する動植物はこの重油の漂着や取り除き作業等により大きな被害を受けた。また、重油を含んだ大量の砂が建設用重機を用いて回収、埋め立てされたことにより、植物群落の欠損を引き起こし、さらには海岸線の地形の変化も見られた。我々の研究室ではこの事故をきっかけに、1998年より現在まで石川県加賀市塩屋海岸・片野海岸において事故後の海岸線の生態環境変動調査をおこっている。海岸の生態環境変動調査では、植生の位置変化を捉えなければならず、目標物がほとんどない海岸で、同一の地点を見つづける必要がある。また、事故以前は調査をおこなっていないため、事故前後の変動の比較をしようとすると、ナホトカ号事故以前の既存のデータと我々の調査データを重ね合わせる必要がある。そこで、本研究では事故後の海岸植生の変動状況を捉えるため、空間情報工学を利活用して、植生の位置変化および植生の有無による海岸の標高変化を解析するとともに、片野海岸・塩屋海岸での急激な植生の変化は、ナホトカ号事故の影響が少なからずあるということを立証することを目的とした。しかし、植物の変動、海岸の標高変化には浸食や飛砂等の気象条件による影響も要因として含まれる可能性があるため、気象データ解析をおこない気象による影響の有無を確認した。
本研究の特色は、使用したデータが、ナホトカ号事故後の生態等の変化を抽出するために海岸でおこなった極めて精密な調査測量結果であることである。この調査は植物の移動、衰退および標高の微妙な変化を同じ地点で時系列に測定することに意義がある。調査測量は季節ごとの植生の変化を把握するため、毎年5月から11月にかけて、4年間で計16回おこなった。調査測量の手順は、まず現地に測量器材を持ち込み、基準点を定め、その点から塩屋海岸では40m×150m、片野海岸では40m×100mのメッシュを作成した。その後、各交点の標高をオートレベルにて測定していき、同時にメッシュ内の植生の位置と標高も測定した。また海岸では目標物や、標高の基準となる点が存在しないため、基準点は以前からその場所にあった固定点とし、その緯度、経度および標高をGPS測量を用いて、最も近い四等三角点より求めた。また海岸の植生フロントラインを求めるため、1999年より毎年9月にDGPSによる調査をおこなった。この調査はDGPS器材を持ち、片野海岸・塩屋海岸の間の植生フロントラインに沿って歩くといったものである。DGPSは1秒毎にデータを取得でき、精度もSAの解除により1m程度になったため、このような調査には有効な手段である。解析においてはまず、気象データを用いた。データは風向、風速および潮汐について、ナホトカ事故以前と事故後のデータを比較した。この解析は事故の影響を純粋に抽出するためにおこなったものである。解析の結果、特殊なデータが出た場合、生態環境の変動が事故の影響であるということは断定できない。しかし、それぞれのデータについて事故前後での特殊な事象は起きておらず、気象に関しては植生衰退の要因から省いても問題ないといえる。次に、調査データについてGISソフトウェアを用いた解析をおこなった。植生の位置についての解析では、数値地図25000(地図画像)を背景に、事故以前である1994年の航空写真を重ね合わせ、航空写真から目視にて得られた植生フロントラインのデータを基準として、DGPSにて取得した3年分のデータとの比較をおこなった。次に、それぞれのデータが基準より沖側に移動している面積、岸側に移動している面積を算出したところ、各年共に岸側に移動している面積が多いことがわかった。このことから、植生位置は平均的に事故以前より後退しているといえる。植生の標高については調査測量データを用いたが、これは常に植生が存在した点と、存在しなかった点を分類し、その変化の大きさを比較した。その結果、常に植生が存在した点の変化の平均は20cm程度内にほとんどおさまっていたが、植生が存在しない点ではそれ以上、大きいところでは平均で80cm以上もの変動が見られた。これまで海岸の標高の変動が植物によって抑制されているということは、概念的には理解されていたが、この調査・計測により、その事実が定量的に表された。そして、両海岸での植生の変化はナホトカ号事故の影響が少なからずあるということが立証できた。また、空間情報工学を用いて植生の位置を測定したことによって、植生の位置変動はどの海岸においても人手を伴わず、高精度で把握できるということが実証できた。



自治体が保有するGISデータを利活用した避難経路のシミュレーションについて

平成12年度

織田 珠枝
わが国は世界でも有数の地震大国であるとともに、台風等の自然災害も多い風土で ある。近年の主な自然災害やその被害状況等から、わが国における防災対策の充実・強化は緊急かつ重要な課題としてあげられている。先の阪神淡路大震災では、 行政による対応の遅れから、多くの人命・財産が失われ長期に渡って都市機能が麻痺した。また、個々の建物や都市インフラへの耐震設計の適用、行政の地域防災計 画に盛り込まれた整然とした復旧計画などいった事前対策の充実に反して、地震発生と被害に対する危機意識の気薄さ、災害に対する認識の甘さも露呈する形となっ た。このような教訓から、地震被害予測システムなどのシステムが構築され、震災対策におけるGISの有効利用が取り上げられた。また、国土空間データ基盤の整備 が進み、GISを構築する際の最も基本的なディジタル図形データである数値地図2500(空間データ基盤)の刊行範囲が広がった。このデータは廉価で購入しやす く、幅広い分野での利用が期待されている。また、自治体は図形データとして地図上に描かれている建物や道路などの地形情報と属性情報を管理している。このよう な背景から本研究ではGISの手法を用い、数値地図と自治体が保有するデータを使用し、道路の安全度の評価方法を検討するとともに、その安全度を用いて任意の地 点から目的地に至る安全かつ最短な経路設定のシミュレーションおこなうことを目的としている。 この研究の特色は、自治体が既に保有しているディジタル地図と 廉価に購入可能な数値地図を用いたことである。災害が生じた場合、建物の老朽化による倒壊や火災により、道路が遮断され通行止めになる可能性がある。その場 合、避難場所までの経路を最短経路と設定することが必ずしも安全であるとは限らない。今回、おこなったシミュレーションは結果的に距離が長くなっても、安全に 避難することを第一条件としており、独自に算出した道路の安全度をもとに、避難地までの避難経路の算出をおこなっており、高齢化社会が進む現在、研究成果が実 際に利活用される可能性もある。



測量学における遠隔地教育の有効性に関する研究

平成12年度

山口 智弘
近年のコンピュータの性能向上やインターネットの急速な発展に伴い、音声や画像 データなどのマルチメディアデータをネットワークを利用して配信する技術が確立してきた。これによりコンピュータを利用した学習システムが一変し、各自のパソ コンでネットワークに接続し学習するオンラインWeb学習へと変わった。オンラインWeb学習システムは画像や音声、動画などを利用でき、双方向のやり取りができ るので能動的な教育システムを期待することができる。現在、多くの大学では教育改革が盛んにおこなわれており、受動的な教育スタイルから能動的な教育スタイル へと移ろうとしてきている。しかし、このような学習形態は一般の講義では難しいとされている。そこで必要とされるのが放送大学やCAIで利用している遠隔地教育 である。遠隔地教育は学習テーマに目を向けると、数学や英語などの基礎科目や資 格試験対策、IT関連にテーマが偏っている。インターネットが情報関連のみなら ず、あらゆる分野に進出してきた現在、他の専門分野に遠隔地教育が導入されてもおかしくない状況となっている。本研究は本学におけるネットワーク設備が充実し ていることや、学生全員がノートパソコンを所有していることに着目し、土木工学の専門分野の一つである測量学を取り上げ、オンラインWeb学習システムを用いた 遠隔地教育の有効性について検証をおこなっている。特筆すべき特徴は、学習システム内で学習時間や学習回数など進捗データを記録できるので、アンケートでは取 得できないデータを学習効果の判定に利用することができる点であろう。今後の本学の教育にも応用できる内容である。



砂防計画におけるGIS・リモートセンシング利用の可能性

平成11年度

山下 淳子
地すべり、土石流といった豪雨に伴う災害は毎年わが国のどこかで発生し、貴重な人命や財産が数多く失われている。 このような土砂災害を最小限に抑えるため、建設省や各自治体は、砂防計画に基づいて砂防施設の設置をおこなっているが、砂防計画は、多大な時間と労力をかけて繰り返しおこなわれており、その設計は、熟練した技術者の勘と経験に頼るとともに、 極めて多くの調査データを使用しなければならない。また、砂防ダムによって埋没する可能性のある埋蔵文化財や貴重種生物などの自然環境を考慮することも難しい。 本研究ではGIS手法を用い、最近では簡単にかつ廉価で購入できる数値地図とリモートセンシング画像(近い将来は高解像度衛星画像も利用可能)を使用し、砂防計画の管理および砂防計画を支援する シミュレーションシステムを構築することを目的とした。



高精度GPS測量の受信障害に関する実験的研究

平成9年度

鈴木 吉彦
GPS測量は人工衛星からの電波信号を受信することにより測位を可能とすることから、混信や反射による測位精度の低下が指摘されているが、現状では不明瞭な部分が多い。本研究では、人工電波による混信がGPS測量に及ぼす影響の検証を目的とし、放送電波塔近傍において受信実験を実施した。 その結果、混信電波を起因とする誤差が混入した場合の精度劣化について定性的な傾向を明らかにした。また、これらの対策として、精度向上には相殺効果が可能であることを示唆した。



地理情報システム(GIS)の地すべり災害への適用

平成7年度

村松 昇
北陸地方は各県下にまたがって地すべりが発生している特異地域である。 石川県では特に能登地方に集中して地すべりが発生している。本研究の目的は、広域性・周期性・同時性に優れた人工衛星データと様々な主題図データ(標高・傾斜・地質)を地理情報システム(GIS)の手法により統合し、近い将来において地すべりの起こり得る地域を特定するところにある。 この研究では、標高データより抽出された各流域における地すべり発生の割合と地形的特徴や人工衛星データの特徴との関係を調査した。



衛星データと地図データとの統合による地滑り地の特徴抽出に関する研究

平成6年度

今林 耕司
北陸地方は、新潟・長野・石川・富山の各県にまたがって地滑りが多発している特異地域である。 特に石川県における地滑りの大半は奥能登地方に集中しており、全国でも有数の地滑り発生地域である。本研究は、地図情報データと衛星データを統合することにより地滑り発生地域の特徴を抽出し、 将来的に地滑りの発生する危険性のある地域を予測する事を目的としている。研究成果として、地滑りとNVI・BAND6との関係、土地被覆分類とNVI・BAND6との関係などが得られ、 更に以上の結果を考慮した地滑り予測図の作成を行った。