辰巳ダムの建設に伴う辰巳用水トンネルの保存と移設、復元

1. 研究目的

辰巳用水は約370年前に建設され、当時の図面が残る工学的価値、史的価値共に高い貴重な構造物である。その中でも辰巳用水トンネルは横穴工法を用いて築造され、当時の土木技術を集結してつくられたものである。しかしながら、水需要の増加、洪水対策、辰巳用水の維持管理の点から取水方法の改善が必要となり辰巳ダムの建設が立案されている。本研究は、ダム建設時、建設後もこの辰巳用水トンネルの保存を目的とするため、ダム建設に伴うダムサイトの掘削が辰巳用水トンネルに及ぼす影響をFEM弾塑性解析によって解析し、辰巳用水トンネルの安全性が保持できる保存計画を立案するものである。








2. 辰巳用水と辰巳ダム計画

 
辰巳用水は、加賀三代目藩主前田利常が寛永8年(1631年)の金沢大火により、金沢城の防火用水として翌寛永9年(1632年)に小松町人板屋平四郎に命じ、犀川の上流上辰巳より金沢城までの総延長10kmにおよぶ引水をしたものである。最大の特徴は全長10km強のうち、約3.3kmが隧道水路であることである。掘削作業においては、わが国で初めて、横穴工法が用いられ、当時の先端土木技術であった鉱山の疎水技術と神田上水の導水木管技術を集結して造られた。使用目的も時代背景の影響により多角化し、河流、河床の変遷、地震などの影響により取水口も雉取入口から古川口と移設され最も取水効率の良い現在の東岩取入口となった。導水木管から石管への取り替え、補水設備の設置、水路敷の盤下げ等の改修、改造が行われている。




3. 解析方法

 本研究では、辰巳ダム建設計と、現地調査の結果を考慮し断面No.20(水没区間)、No.140(取壊し区間)、No.180(保存区間)のFEM解析を行い、安定性評価を行った。解析するにあたっては、トンネルの断面形状、クラック、地質を考慮し、解析が実際のトンネル状態を表現できるよう努めた。また、ダムサイト掘削時の安定性評価の結果から対策を検討し、地震荷重をかけ、将来の安定評価をする。











4. No.180対策工を考慮した将来の安定性評価

 解析を行った結果、右の安全率図(図-9、10)を見ても分かるように、地震力によってトンネル周辺のJOINT要素に囲まれた部分が安全率1.0を下回り、部分的に安全率1.5を下回る要素もあるため、周辺が破壊してしまうために、トンネルは破壊すると予測できる。
 これまでの解析結果より、No.180断面においてはダムサイト掘削の影響により、辰巳用水トンネルは崩壊の危険性が非常に高いことが示された。現在、この保存区間は、ダム建設後にギャラリー(図-8)として一般公開する計画が立案されている。保存、一般の公開するにあたって、現在、安定状態の悪い辰巳用水トンネルには何らかの対策工が必要であると思われる。そこで、トンネル表面にコンクリート覆工を施すことにより、トンネル内の安全を確保するという対策工を提案する。





8. 結論

・各断面共に、トンネルに対するクラックの影響は非常に深刻で、現状においてもクラックに対する対策が必要である。
・取壊し区間は、現在の計画掘削ラインによるトンネル破壊への直接的影響は少なく、覆工をすることで地震時においてもトンネル内の安定性は保たれる。換言すれば、保存区間の延長が期待できる
・取壊し区間については、現在の計画掘削ラインが適当であるが、ダムサイト掘削時の発破作業、重機などによる振動がトンネルに影響を及ぼさないように配慮する必要がある。
・保存区間においては、鉄筋コンクリート覆工を施すことにより、地震時においてもトンネル内は安定性か保たれる。