白山甚之助谷地すべり予知

 

1.研究目的

白山甚之助谷では、大規模な地すべりの発生が懸念されている。この地すべりが発生すれば、大量の土砂が土石流となって流出し、白峰村に被害を及ぼす。さらに下流の手取川ダムに流れ込んだ土砂は、ダムの洪水調節機能を減少させ下流域で洪水の起こる頻度を増大させる事になる。本研究では地滑りが発生するか、否か、発生するとすればいつ頃かを予知し、その予知結果や甚之助谷付近の地質に基づいて、白山甚之助谷の地すべり特性を解明しようとするものである。


2.地すべり予知方法

本研究では白山砂防計画と現地調査の結果から地表面、孔内傾斜計、堰堤で得たデータを使用し、川村らが提案した予知方に基づいて解析を行った。地すべりはクリープ挙動で近似できると言われる。そのため観測初期より予知解析を行う時点の直前のデータほど予知に対して有効な情報を提供してくれるので、観測値に重み付けをする手法を用いて、地すべり挙動を判定し、発散型地すべりの場合崩壊時間、収束型地すべりの場合は収束値を求める。相関係数は1.0に最も近い値とし、重み付けは0乗(重み無し)、1乗、2乗、4乗を採用し解析を行った。本年度は新たに川村法の精度を求める為、昨年度の予測値と今年度の実測値から誤差範囲を求め、その誤差を考慮した解析を行った。(観測点のデータ数を考慮し地表面のみに採用とする。





3.表面地すべり予知結果と検討

 甚之助谷及び別当谷の観測ポイント64箇所に関して予知解析をした結果、2002年12月までに崩壊が32箇所、2003年12月までに崩壊が9箇所、2004年以降に崩壊が16箇所、収束が4箇所であった。これらの結果は、昨年度の結果と比較しても、同様の動きをしていると言える。最も危険であると考えられるのは、昨年度と同様に右岸下流ブロック付近である。このことは、図2の赤の矢印が集中している事からも分かる。その他にも、左岸ブロック、中間尾根大規模ブロックが危険であると考えられる。理由としては、これら2ブロックの変位量が、ここ2〜3年で大きくなっているためである。このことから右岸下流ブロックには、尾根ブロックから大きな応力で押されていると捉える事ができる。地質からも、甚之助谷や別当谷は、火山噴出物が地表を覆っており、不安定であることが推測できる。このことから右岸下流ブロックが、崩壊することで中間尾根大規模ブロックを巻き込んだ大きな地すべりが発生すると考えられる。
 また、川村法の精度に関しては、一年間の実測値でプラス方向に22%、マイナス方向に27%の誤差となった。崩壊予測時間(図2の矢印)では、前後7ヶ月の誤差が生じる結果となった。これは川村法の信頼性が高いことを示している





4.孔内傾斜計予知結果と検討

 甚之助谷の孔内傾斜計観測ポイントの4箇所(図2参照)から解析をした結果、右岸上流部BV-66は10mから50mで崩壊60mは収束、右岸下流部BV-67は全ての深度で収束、中間尾根上部BV-73は全ての深度で崩壊、左岸BV-74は10mで崩壊20mでは収束と予知した。図3、4は断面図で付近の地表面の予知結果も示す。この結果よりBV-66、BV-67は深さ60m付近、BV-73は深さ50m付近の深い位置に、BV-74は深さ10m付近の浅い位置にすべり面が存在し、甚之助谷に向かって大規模な地すべりが起こっていると予測される。またすべり面は崖錐堆積物と手取層群砂岩・貢岩互層の間に起きており大規模な地すべりが発生する危険性が高いと考えられる。










5. 甚之助谷堰堤群地すべり予知結果と検討

甚之助谷下流堰堤群の観測ポイント12箇所について解析を行なった結果、2002年12月までに崩壊すると予測されたものが5箇所、2003年12月までに崩壊すると予測されたものが4箇所、収束と予測されたものが3箇所となった。これらの予知結果と過去2年間の解析結果を考慮して、甚之助谷下流堰堤群は、すべり線の冠頂部がZC-1の堰堤付近、先端部がZ9-2の堰堤付近で、右岸ブロック、左岸ブロックを含む円弧状の大規模な地すべりが発生すると予測できる












結論
 
 地表面、孔内傾斜計、堰堤の地すべり予知結果と別当・柳谷・甚之助谷の地質構造から、すべり面は地表面を覆っている崖錐堆積物と手取層群の間に
起きており、その末端部にあたる甚之助谷を含む右岸上流、右岸下流、左岸ブロックの崩壊の危険性が最も高い。右岸下流ブロックが崩壊することで中間尾根大規模ブロックを巻き込んだ大規模な地すべりが発生すると考えられる。その際、発生する地すべり土塊が柳谷に流れ土石流化し、下流にある白峰村周辺に大きな被害が及ぶ恐れがある。そのため地すべりの抑制・抑止対策や土石流の抑止対策を必要とする。