能登空港建設時の大規模盛土の安定性評価

1背景 目的

 わが国はきわめて自然災害が多く、その要因として地理・地質環境が大きく影響している。このため大規模構造物を施工する際には地理・地質環境を考慮した施工を行わなければならない。能登空港建設に際しても、盛土材料の半分を高含水比の土砂が占め、最大高さ55mにおよぶ盛土を3年間で行うという急速盛土施工である。その為、局所的なすべり破壊対策の観点と今後の維持管理の観点から盛土の変位量の予測は不可欠である。
本研究では、大規模盛土施工で生じた沈下と側方変位の観測結果を適用し、地盤のパラメーターを同定し、これによって空港完成から10年後における盛土の安定を予測し、そこから圧密度などを求め斜面安定解析を用い空港の維持・管理に役立てていこうとするものである。


2能登空港の概要

 能登空港は能登半島の輪島市、穴水町の境にある木原岳を中心とした一帯に建設されており、着陸帯(長さ2120m*幅300m)、滑走路(長さ210m*幅23m)、及び各空港保安施設などを有する第三種空港として平成15年7月に開港予定である(図1―平面図)。能登空港は切土量800万m3、盛土量800万m3、総土工量1600万m3に及ぶ大規模土工事であり、盛土材料には現地で採取される硬岩、軟岩、土砂を使用している(図2―断面図)。
      


3解析方法

 解析手順を図3に示す。本研究では沈下、側方変位量の解析にGEOFEM(有限要素法)を用いた。解析地点は、硬岩、軟岩、土砂が使用され、かつ最大盛土高55m施工区である32でおこない、残留沈下の規制が厳しい測点3、側方変位が計測されている測点6について比較を行った。時間経過に伴う物性値(主に弾性係数,圧密係数,ポアソン比など)の変化を検討する為、解析断面において、それぞれの実測値と解析値の比較を行い、両値の挙動が一致するまでFEM解析を繰返し、地盤の材料パラメーターの同定を順次おこなっていった。最終盛土高40m地点での両値が一致した解析定数を用い、盛土施工終了から10年後の沈下と側方変位の予測をし、残留沈下を求めた。そこから、圧密度を推測し最大盛土高施工区での法面の円弧すべり面簡便分割法による安定解析を、地下水位を考慮し実施した。地下水位は施工開始から2002年1月までの最大水位と天端に上昇した場合を考慮した。将来における盛土の維持・管理の観点から長期安定解析をおこなった。なお、設計水平震度khは短期0.06、長期0.12とした。(「空港高盛土工設計指針、運輸省航空局」参照)


4解析結果

 沈下と側方変位の実測値と解析値は各盛土高ごとに一致した。盛土施工終了後から10年後における盛土体の挙動を図4、5に示す。この結果、残留沈下量は8.28cmと予測され、7年後には収束するという結果がでた。側方変位に関しては10年後においてもわずかながらも挙動が生じると予測された。
 一方、簡便分割法による安定解析の結果を図6、7に示す。施工開始から2002年1月までの最大水位での長期安定における安全率は常時、地震時ともに許容安全率を満たす。次に地下水位が天端部の解析結果においても常時、地震時ともに許容安全率を満たす。No.23、No.26、No.38での安全率よりもNo.29、No.32、No.35での安全率は低い値を示した。


















5結論

・以上の結果から時間経過に伴う盛土の材料定数の変化を確認できた。
@ 弾性係数Eの変化は盛土荷重増加に伴い土砂、軟岩、硬岩ともに増大した。これは圧密促進により盛土材料が締固められていき強度が増加したためと考えられる。
A 圧密係数Cvの変化について、土砂部での圧密係数は盛土施工が進むにつれ値は増した。これは排水材の効果によるものと考えられる。軟岩部においては値が小さくなった。この要因として、盛土が高くなると排水距離も長くなり、排水時間がかかることによるものと考えられる。
・盛土体の沈下は収束すると言える。つまり残留沈下の影響は盛土体完成から7年前後で解消され、安定すると見てよい。しかし、側方変位に関しては収束が確認できておらず、今後の監視、計測を行うと同時にいつ収束するのかをFEMで予測する必要がある。
・簡便分割法による安定解析について、各断面とも地下水位の変化が生じても安全であると言える。ただし、断面によって安全率の違いが表れており、これは、法長、盛土高さの違いが影響しているためである。地震時における安全率は許容安全率と変わらない安全率を示していることから、今後も地下水位などの監視を行う必要がある。地下水位の変化を考慮し、各盛土断面における安全率の変化を把握する事で、今後の維持・管理に役立てていけるものである。