設計理念

  私達は、2009年第7回全日本学生フォーミュラ大会エントリー車両KIT-09model(以下、09modelと示す。)を、美しさと存在感、さらに気品に満ちた車両を目指し、「美・在・気」をメインコンセプトとして設計した。 KIT-07model、KIT-08model(以下、07model、08modelと示す。)を用いた市場調査によって得られた、「格好が悪い車はいらない」という意見を受け止め、車両の美しさ、存在感を独自の手法で表現することで、市場の要求に応えられると考えた。

09modelは美しさをはじめとする第一印象に着目し、「美しさ」、「価格」、「大パワー」の三点を重視することにした。

まず、「美しさ」を表現するために十数枚のスケッチを作成した。  その中から石川県の県鳥であり本学のシンボルであるイヌワシをモチーフにしたデザインを採用した。 「G.E.Wing」をデザインコンセプトとした09modelは、左右に伸びた翼と、先端に伸びた嘴がイヌワシを彷彿とさせ、フロントセクションからリアセクションまでを覆うアンダーパネルは、解析ソフトを活用し最適化を行った。 これらにより、大空を飛翔するイヌワシを表現するようなデザインとした。

「価格」に関して、まず導入する市場の既存競争販売価格を想定して算出した。想定した市場での高性能車は1kg当たり10,000円程度であり、この値を目標値として設定した。 対象市場での販売価格帯を維持しつつ、車両性能を向上させることを目指した。

 「大パワー」について、アクセラレーションを4.00sで走り切るという目標値を設定した。 これを達成するため、目標馬力を86PS、目標車両質量を220kgとした。 また、目標前後質量配分は、加速性能を上げつつ、できるだけ旋回性能を損なわないよう43:57とした。

 

エアロダイナミクス

 08modelまでのカウルは、フレームなどが決まってから形状を決めていたが、09modelではまず車両のスケッチを制作することから始めた。 そこで、十数枚のスケッチを描き、「G.E.Wing」というイヌワシをモチーフにしたデザインコンセプトを決めた。 このデザインコンセプトを表現するため、見た目の美しさを第一に考えてカウルの最終形状を考案した。

 イヌワシは、鳥類の中で最も空高く飛翔する鳥といわれていることから、大きな翼のようなデザインを取り入れた。 また、天狗のモチーフになったともいわれることから、その特徴的なくちばしを表現するような形状を目指した。 さらに、フォーミュラカーはレーシングカーであり、レースで戦うことを求められている。 よって、大きな翼と戦う車両のイメージから戦闘機のような攻撃的なデザインも取り入れている。

 これらのことを踏まえ、先端から左右に広がる翼(サイドポンツーン)は戦闘機のような3次元的な曲線を描きつつ、イヌワシが大きな翼を広げて飛翔するような形状とした。

 次に、美しさを考慮しつつ嘴(フロントノーズ)の形状最適化を図った。 いくつかの形状を考案し、流体解析を行うことでCd値を減少させた。 まず、ベースとなるモデルに流体解析を行い、集中した圧力を後方に拡散させるように、先端からの半径を一定とせず、徐々に小さくする形状とした。 これにより、ベースとなるモデルよりもCd値を50%低減させることに成功した。

 また、09modelでは新規にアンダーパネルの設計を行った。 アンダーパネルを装着することにより、床下に流れる空気を利用してダウンフォースを発生させ、車両の走行中に起きる揚力の低減を図った。 これは、タイヤにかかる荷重を増やし、タイヤのコーナリングフォースを向上させることが目的である。 さらに、車両中心部から後方にかけて形成したベンチュリ形状は、スプリッターの数とその間隔を流体解析を用いて最適化をし、車両全体にかかる揚力の低減を図った。 この結果、100km/h走行時で約500Nのダウンフォースを発生させることに成功した。

 

パワートレイン

 09modelでは、「大パワー」を実現するため、エンジンをHONDA CBR600F4iのPC35Eエンジン(以下、PC35Eと示す。)から、SUZUKI GSX-R600 K9のN735エンジン(以下、N735と示す。)に変更した。

 PC35Eは製造から8年以上経過しており、09年に発売されている同系列の新型エンジンと比較すると、出力で10PS程度の差が生じている。 そのため、「大パワー」を実現するために、新型のエンジンを導入することは必要不可欠であると考えた。 「大パワー」を実現するために選んだN735は09年に発売されている他車のエンジンと比べ、平均有効圧力とトルクが一番高い数値を示している。 これらのことから、「大パワー」を実現するのに最適なエンジンであると判断した。

 

 

 

 次に、吸排気系統での各工程で発生する抵抗の低減を図った。 まず、吸気系統については、リストリクタをこれまでの実験データを基に、インデューサのRを30mm、ディフューザーの角度を6deg.とした。 また、吸気系統の接合面の段差を極力無くすように、溝にはめ込む等の形状の工夫を行った。

 排気系統に関しては、溶接個所を減らすため排気管を手曲げで製作した。 これにより、溶接箇所を集合部のみに限定し、排気管内の通路抵抗を低減させた。 また、排気慣性・脈動効果を利用し、排気効率を向上するべく排気管長の計算を行った。 過去の車両データを見ると、9400rpmでパワーがピークを迎えていることから、9400rpmをリストリクタの影響が効き始める点と考えた。 このことから、極力高い回転数で同調させるため、排気管の同調回転数を9400rpmに設定し、より高出力を発生できるように設計した。 その結果、排気管長は第1集合部までが494mm、第2集合部までが664mm、テールパイプ端までが774mmとなった。

 更に、サイレンサーにはストレート構造を採用し、市販車両等で多く用いられている多段膨張式のものに比べ、排気抵抗を低減させた。 また、 09modelではサイレンサーを自作することで軽量化とコストダウンを図った。 材質を選定する上では、比重が低く排気の高温に耐えられ、加工コストが低いものが最適であると考えた。 そこで、これらのバランスを考えアルミニウム合金を採用し、市販品に比べ約60%の軽量化と約70%のコストダウンをすることができた。

 

 このように、より多く吸気し、より完全に排気する吸排気系統とすることで、大パワーの実現を可能とした。

 燃料系統に関して、08modelでは燃料タンク内の燃料ホースが裂けてしまい、エンジンがかからなくなるトラブルがあった。 そのため、09modelでは燃料系統の安全性と信頼性の向上を図った。 まず、フューエルポンプをインタンク式からアウトタンク式に変更した。 これにより、ポンプ・フィルター等の機器が全てタンクの外へ設置されることとなり、燃料タンクからポンプ類を取り外すことなく、フューエルラインの異常を確認できるようにした。 さらに、燃圧計を設置することで、容易に燃圧を確認できるようになり、エンジン始動に問題があった際は即座に対応できるようにした。これらの改良により、燃料系のトラブルの予防と容易な発見を可能とした。

 ドライブトレインについて、09modelではアクセラレーションでの目標タイムを4.00sと設定した。 車体質量が220kgなので、平均加速度と車体質量から必要駆動力は210.2kgである。 この時の条件は、フルトルク発生時のものである。 また、摩擦係数と必要駆動力から必要輪荷重は162.8kgである。 この必要輪荷重を得るために車両の前後質量配分を43:57とした。 さらに、必要駆動力210.2kgをスタートからゴールまで維持するために、トルクを6.6kg・m、ドライブ、ドリブンスプロケットのギヤ比を13:39とした。 09modelでは4速でゴールすることを想定し、このトルクとギヤ比では4速で229.9kgの駆動力を維持することができる。 これらによって、アクセラレーションを4.00sで走りきるための駆動力、輪荷重を実現した。

 

サスペンション

 09modelの足回りは、デザインコンセプトの「G.E.Wing」に基づき、シャープでエッジの利いたフォルムと操縦性の向上を目指した。 それらを実現するため、サスペンションシステムをシンプルな構造とし、高剛性、見た目の美しさを追及した。 サスペンションジオメトリは、ホイールストロークやステア時のキャンバー角、キャスター角、トー角などの変化を極力小さくし、ブレーキやスラローム時の車両の挙動を最小限に抑えるようにした。 また、フレームと足回りを合わせたシャシ全体を構造解析することによって、各種パーツの剛性確保及び安全率の最適化を図った。これにより、フレームに対して必要な剛性を確保しながらバネ下質量の軽量化を達成した。

 また、08modelに比べ、キャスタートレールを30%短縮させたことによって、更に操縦性が向上した。 さらに、サスペンションの機構を見直し、ショックアブソーバを十分に活用できるよう考慮した。 ショックアブソーバは安価かつ高性能でコンパクトなMTB用のものを選定し、スプリングは車両に合わせて設計を行い、軽量かつ高性能なスプリングを採用した。 また、スタビライザーの装着により、ロール剛性の向上を図った。

 サスペンションアームにについて、材料にアルミニウム合金を採用した。 外径を太く断面係数を大きくとるような構造とすることで、軽量ながら高剛性を狙った。 また、アルミニウム合金特有の光沢を持たせることで美しさも追求した。

 ハブについて、構造解析を行い構造と形状の最適化を行った。 これにより、生産コストを抑え、信頼性の向上と軽量化の双方の実現を目指した。 結果、フロントハブ1個あたり07modelと比較して約74%の軽量化と約82%のコスト削減を実現した。

 また、ブレーキについて、08modelではリアが先にロックする傾向があった。 この原因として、フロントの制動力が足りず、さらにリアの制動力が多すぎたことが考えられる。 また、タイヤがロックする減速度を測定した結果、 1.5G付近でタイヤがロックすることがわかった。 そのため、09modelでは、減速度1.5Gで四輪が同時にロックするように設計を行った。 前後制動配分については、減速度1.5Gのときに2.3:1となるように設定した。 制動配分は、ローター径、マスターシリンダピストン径などによって決まる。 フロントの制動力を増やすと共に、リアの軽量化を図るため、これを踏まえ、リアのローター径を200mm、フロントのローター径を220mmとした。

 マスターシリンダー径は、フロント側を19mm、リア側を16mmとし、フロントの制動力を増やすことによって前後の制動配分に差をつけた。 また、エアー抜きなどの作業を考慮すると、キャリバーのニップルは上向きになっていることが望ましい。したがって、左右対称のキャリパーを選定した。

 ホイールについて、今まで使用していたアルミニウム合金製ホイールは、市販車用のものを流用していた。 そのため、軽量な学生フォーミュラカーに対しては必要以上に強度があり、重量も重かった。 このことから、09modelでは学生フォーミュラカーに適するように、市販品から30%の軽量化を目指して軽量ホイールの設計を行った。 まず、設計を行う上での入力条件を、08modelに発生する最大コーナリングフォースと最大輪荷重として解析を行い、スポーク形状、リムの厚み等を決定した。 材質はアルミニウム合金から、より軽量なマグネシウム合金とし、質量を、アルミニウム合金製ホイールと比べて45%削減することができた。 インチ、幅に関しては従来のものと同サイズとし、オフセットをフロント、リア共に±0とした。 オフセットを車両側に近づけることで、サスペンションアームは短くなるが、ホイールとの干渉は緩和されるため、サスペンションジオメトリの自由度が高くなった。 最終製品は、市販車と同じ方法で試験を行い、安全性を確認した。

 

シャシ

 08modelフレームは、構造が複雑でコックピットセクションが狭く、ドライバーは窮屈な姿勢で運転しなくてはならなかった。 そこで、09modelのフレームでは、十分なドライバースペースを確保できる設計とした。 さらに、製作性の向上を図りつつ、ねじり剛性が1000Nm/deg.以上となることを目標に設計を行った。

 ドライバーの意見を参考にステアリング操作がしやすいよう、またひじの角度が120deg.となるよう、腕の長さを考慮してメインフープからフロントフープまでの距離を決定した。 また、リアセクションのアッパーメンバーとクロスメンバーを曲げによる一本構造とすることで、溶接箇所をし剛性の確保と製作性の向上を両立させた。 結果、09modelはエンジン搭載時におけるねじり剛性の解析値が1231Nm/deg.となった。 08modelで行った同じ条件下での解析値と実験値の誤差が5%程度であったため、目標の1000Nm/deg.以上を達成することができたといえる。

 ペダルユニットについて、08modelではアクセルペダルやマスターシリンダーのブラケットに剛性不足がみられ、ドライバーの踏力がうまく伝達されなかった。 そこで、ブラケットの肉厚を厚くし、リブを設けることで剛性の向上を図った。 さらに、断面係数が高い角パイプを採用して剛性の向上を図りつつ、材料にはアルミを用いることで、36%の軽量化を達成した。 また、ドライバーの好みによってブレーキの制動力を調整するため、ブレーキペダルにバランスバーを設けた。

ペダルジオメトリについて、ペダル初期位置を垂直から15deg.前方に傾けた。 これは、ペダル最大踏み込み角度の30deg.の時に、ドライバーの足の甲と脛が人間工学的に最も背筋力を発揮しやすいと言われる直角となるよう考慮した結果である。

さらに、各ドライバーの身体的な個人差を調整するため、シートに50mm前後する調整機構を取り付けた。 これらによって、ドライバーの踏力を効率よく伝達することが可能となった。

 電装について、09modelでは視認性と信頼性の向上を図った。 走行中にドライバーの視点がメータパネルになくても情報を受け取れるよう、LEDを用いて光量を増やした他、エンジン回転数のインジケータをメータパネルの上方に配置することで視認性の向上を図った。 また、08modelでは配線の短絡や断線が問題となっていた。 そこで、09modelではロック機能付きのカプラーを採用した。 また、接続部にギボシ端子を使わず、圧着端子を用いることで短絡や断線の危険性を減らし、信頼性の向上を図った。

 

 

まとめ

 09modelでは「格好が悪い車はいらない」という市場のニーズに応えるべく開発・設計を行った。 第一印象という個人によって異なるイメージを、独自の手法と理論によって表現しながら、今まで培ってきた技術や性能をうまく取り入れることで、金沢工業大学という個性を表現することができた。 これにより、市場のニーズに合致する車両を開発したといえる。