設計理念

 私達は,2008年第6回全日本学生フォーミュラ大会エントリー車両"KIT-08model"を設計するにあたり,「旋回性能の向上」をコンセプトとしました.2007年度車両KIT-07model(以下07model)では,基本性能の向上とサンデーレーサーを主眼に置いた設計を目指しました.

 また,独自に市場調査を行うことで,サンデーレーサーが車両に最も求める性能を調査しました.08modelでは,販売対象を07modelと同様とし,更に市場の要求に応えられるように旋回性能へ注目することとしました.そこで,設計にあたって重視する点として,以下の3項目を掲げました.

「バネ下質量の軽量化」

「フレームの高剛性化」

「慣性マスの集中化」

 この三つを達成することにより,「旋回性能の向上」を目指しました.

バネ下質量の軽量化

 路面の追従性を上げ,より俊敏にサスペンションを稼動させることを目指しました.

 当チームが初代車両より引き継いでいる,伝統の軽量アルミニウム合金サスペンションアームをはじめ,08modelでは07modelのサスペンションジオメトリを見直し,構造解析ソフトを活用することで軽量化を目指しました.

フレームの高剛性化

 走行中の車両の変形量を減らし,理想的なサスペンションの作動を目指しました.

 07modelでは06modelの問題点であった,リヤセクションの剛性の不足を改善することができました.しかし,車両全体のフレーム剛性は十分なものではありませんでした.そこで,車両全体のパッケージングを見直すことにより,フレーム剛性向上を目指しました.

慣性マスの集中化

 部品を車両の旋回中心軸に近づけ,車両の応答性の向上を目指しました.

顧客のニーズへの対応

 サンデーレーサー向けの車両として魅力を持たせるため,主にイニシャルコスト,ランニングコストの削減や整備性の向上を目指しました.車両全体では,フランジ付きボルトの使用により部品点数が削減され,ボルト交換時のワッシャー交換を省略することによるランニングコストの削減をおこなった.また,整備性の向上として,セッティング自由度の増加や調整箇所の簡略化により,整備時間の短縮化も目指しました.

 

サスペンション・ステアリング

 07modelは直進安定性が高く,アクセラレーションでは好成績を得ることができました.しかし,直進安定性が高すぎることにより,ステアリング操作の重さが課題となりました.そのため,08modelではステアリング操作の軽さに重点を置きました.

 ジオメトリについて,キャスター角を5deg.から3deg.へ設計変更を行いました.これによりステアリング操作力を低減し,ドライバへの体力的負担を軽減させました.

 ステアリングシステムについて,ピニオンギアの歯数を13枚から15枚にし,ピニオン・ラックのモジュールを2から1.5に下げました.この結果,07modelステアリングASSYは1800gであったのが,08modelステアリングASSYでは1540gとなり,約12%の軽量化に繋がりました.また,ステアリングホイールを自作にすることで計器,スイッチ類のレイアウトが自由になり,コストを89%削減しました.

 また,07modelでは走行中の内輪差によるパイロンタッチが多く見られていたため,08modelではホイールベースを30mm,トレッドを40mm短くし,コンパクトな車両としました.

 

 フロントハブの車軸について,07modelとそれ以前の車両ではブレーキローターを取付ける際にブレーキロータースペーサーを介していました.また,既製品のブレーキローターを取付けることを前提にハブ等を設計していたため,設計に制約が生じていました.

 08modelでは,軽量化と部品点数の削減を目指しアルミニウム合金のハブ一体型としました.ハブにブレーキローターを直接取付ける構造をとることによってスペーサー類が不要になり,部品点数の削減や軽量化を実現することができました.

 また,使用するボルトの本数を10本から5本に減らすことで50%,穴あけ加工を27箇所から5箇所に減らすことで80%の加工コスト削減を図りました.さらに,材料を鋼材からアルミニウム合金にしたことにより,製作時間を85%削減することができました.

 強度計算について,構造と形状の最適化を図るためにFEMを用いました.信頼性と軽量化の両立を目指すことにより,ばね下重量の軽量化とマスの集中化を実現することができました.

 

 ブレーキローターについて,ハブに直接取付けられる構造とするために自作品を採用しました.材質には放熱性の良いダクタイル鋳鉄を採用し,ハブに対しての熱の影響も少なくなりました.また,ブレーキロータースペーサーを無くすことにより,900gの軽量化ができました.

 この結果,ブレーキローター単体で約7%の軽量化を実現できました.また,ブレーキローターの自作により,コスト面でも17%の削減ができました.

 

 アップライトについて,設計を行うにあたっては軽量化と製作の容易さに重点をおきました.軽量化に関しては強度計算を見直すことによって,フロントアップライトは35%,リアアップライトは30%の軽量化を達成しました.

 特にリアアップライトについては,右用と左用で同一形状,即ち左右対称の形状とすることによりNCのプログラムを共用でき,作業時間を50%短縮することができました.また,予備パーツも共用できることから,マシントラブルに対して最小限の予備部品で対処可能となりました.

 

 キャンバー調整について,アッパーアームとアップライトの接続部へシムを挿入する方式を採用することにより,キャンバー角を迅速且つ正確に変更できるようになりました.

 

 スタビライザーについて,08modelよりリアにスタビライザー機構を設け,車体のロールを制御できるようにしました.また,構造にはセッティングが容易かつ特性のバリエーションに富んだ板ばね式を採用しました.

 

 ホイールについて,07modelで使用していたものはアルミニウム合金製の市販車用でした.そのため,車体重量の小さい学生フォーミュラカーに対しては必要以上の強度がありました.08modelでは,ホイールの設計を学生フォーミュラカー用へ最適化することにより,市販品に対し30%の軽量化を目指しました.

 設計を行うにあたり,07modelの最大コーナリングフォースや最大輪荷重等を用いてFEM解析を行い,スポーク形状やリムの厚み等を決定しました.また,試作品にて市販車と同じ方法で強度試験を行い,安全性を確認しました.

 材質については,アルミニウム合金から軽量なマグネシウム合金へ変更しました.規格に関しては07modelと同様とし,オフセットのみ±0㎜へと変更しました.これによって,ホイールとの干渉が緩和されるため,サスペンションジオメトリの自由度が高くなった.質量については07modelと比べて45%削減することができ,車両の慣性モーメントの低減に大きく貢献しました.

エンジン 

 07modelでは,7,000rpm付近でトルクの落ち込みが発生し,加速が鈍いことが問題となっていました.また,製作精度の不足により,燃料噴射装置の取り付けに不具合が生じていました.

 周回競技のコースは中低速コーナーが多いため,出力特性としてはトルク変動の少ないことが望ましいと考えました.そのため,リストリクタによる吸入制限によって影響が大きくなる回転域での体積効率を向上させることを目標としました.


 吸気集合管については07model同様に後方吸気を採用しましたが,吸気管長を変更しました.07modelでは同調回転数が6,500rpmでしたが,トルクが7,000rpm付近で落ちてしまいました.これを改善するため,08modelでは同調回転数を7,000rpmとしました.その結果,吸気管長は管内径26mm,長さ144mmとなりました.ファンネル部は過去の流体解析と実験結果よりR寸法を30mmに統一しました.

 インジェクタホルダについて,07modelまで吸気管と別パーツとして製作していましたが,製作精度が出ませんでした.この対策として,インジェクタホルダをアルミブロック削りだしで製作し,吸気管との一体型とし,溶接を不要とした.また,加工順序を変更することで,ポート取り付け部とインジェクタホルダ内部の段差をなくすことができました.これによって,各気筒の燃焼室へ送る燃料量の差がなくなりました.

 サージタンク容積については,フラットトルク特性を狙って拡大しました.トルク特性の改善によって,加速性能の向上が期待できます.

 コストについて,部品を一体成型にすることで5%のコスト削減を図りました.また,全体重量については約4%の軽量化となりました.

 

 排気集合管について,07modelの排気集合管の利点であった製作性と滑らかなRによる構成を受け継ぎ,課題であったマスの集中化について改善した.サイレンサーのレイアウトの検討を行った結果,フレームのメインフープの真横へ水平に低く配置することとした.このレイアウトでは,ロール軸を中心とした慣性モーメントは増加するが,ピッチ軸,ヨー軸を中心とした慣性モーメントを大幅に減少することができた.

 

 燃料タンクについて,07modelでは旋回時に燃料に偏りが生じガス欠症状が発生していたため,改善を図るために上下へ長い形状のタンク形状を採用し,燃料の偏りを防ぎました.また,燃料の偏りを抑制するためのバッフルを実験によって最適化しました.

シャシ

 07modelのフレームの問題点は,剛性の低さでした.そこで,08modelフレームは最大質量30kg以下とし,捩れ剛性を2倍以上にすることを目標に設計しました.その結果,07modelのエンジン搭載時での捩れ剛性値が552Nm/deg.でしたが,08modelでは1492Nm/deg.であり,約2.7倍に増加しました.また,フレームの質量については約29kgに抑えることができました.

 メンバー配置について,アッパーサイドインパクトストラクチュアルメンバーのラインよりも下へ重点的にメンバーを組むことでフレームの低重心化を図りました.その結果,07modelより20mm重心が下がりました.

 重量配分について,フレームの後端の長さを270mm短縮し,エンジンを重心へ50mm移動しました.また,部品の配置を最適化することによって重量配分が目標配分の48.8:51.2に近づきました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ペダルユニットは,07modelでは重く,構造が複雑でコストも高かったため,08modelではこれを改善するように設計を行いました.機能を割り切ることで単純な構造とし,使用する材料を少なく抑えました.これによって,07modelより29.0%の軽量化ができました.また,締結箇所を11箇所減らし,整備性の向上と組み立て精度の向上を図りました.さらに,締結部を45.0%削減することで,07modelから大幅な単純化ができました.コストについては,部品点数を49%削減することでコストを低く抑え,07 modelに比べ40%削減できました.
マスターシリンダーについて,取り付け位置を大幅に車両の重心へ近づけることにより,慣性マスの集中化に貢献しました.

ドライブトレイン


 08modelでは,部品の強度,剛性の向上,材料,加工コストの削減を意識して設計しました.

 

 ディファレンシャルマウントについては,コンパクトな形状とすることで全体の加工費を低減することを目指しました.また,断面形状を見直し,加工時間を大幅に短縮しました.その結果,加工費を75%削減することができました.質量については37%削減しました.
 形状について,構造解析を用いて最適化しました.その結果,強度は47%,剛性は79%向上しました.


チェーンテンショナについては調整幅を短縮し,軽量化を図りました.結果,重量は6%低減できました.また,加工工程についても無駄な工程を削減することで加工費を抑えました.この結果,材料及び加工費は49%削減することができました.

まとめ


 以上,「バネ下質量の軽量化」,「フレームの高剛性化」,「慣性マスの集中化」の改良を達成したことにより,08modelはコンセプトである「旋回性能の向上」を果たしました.