内川・露本研究室 研究成果
Research Report of Uchikawa & Tsuyumoto Laboratory

エコセメントと廃棄物骨材を原料としたモルタル硬化体の微細構造
Microstructures of Hardened Mortars Using Eco-Cements and Sintered Sewage Sludge

画像の転載禁止 Copyright (C) 2001 I. Tsuyumoto and H. Uchikawa

■ 背景と目的 Introduction

 近年、廃棄物の有効利用技術が飛躍的な進展を見せ、都市ゴミ焼却灰を原料にしたエコセメントや、大量の廃棄物起源骨材を原料にした廃棄物高含有コンクリート(HVRWC, High-Volume Recycled Waste Concrete)が開発されている。これら廃棄物起源の建設材料を有効かつ安全に使用するには、その微細構造を明らかにしておく必要がある。従来の標準ポルトランドセメントと天然骨材を原料としたコンクリートに関しては、セメントペースト・骨材界面に形成される遷移帯が、コンクリートの強度、耐久性、水密性に悪影響を及ぼすことが明らかになっており、その制御技術も確立している。しかしながら、都市ゴミ焼却灰を原料とした従来と組成の異なるエコセメントや廃棄物起源骨材を用いた場合に、遷移帯の形成や生成物の分布がどうなるのかは全くわかっていない。そこで、本研究ではエコセメント、廃棄物起源骨材を原料としたモルタル硬化体の微視的構造を明らかにし、性能との相関を解明することを目的とした。

■ 実験 Experiment

 本研究では、普通型エコセメント(低塩素タイプ)、速硬型エコセメント(高塩素タイプ)の2種類のエコセメントを用い、標準砂、および溶融下水汚泥(水砕)を細骨材として、4種類のモルタル硬化体を調製した。モルタル、細骨材、水の混合比はJIS R5201に基づいて1:3:0.5とし、20℃の水中で養生した。材齢3,7,14,28日のものについて圧縮強度試験、曲げ強度試験を行った。材齢28日のものについて、乾式研磨後、JEOL社JXA-8800により背面反射電子像の観察、2次X線像による元素マッピング(O, Si, S, Ca, Na, Al, K, Cl, Fe, Mg)を行った。加速電圧は15kV、照射電流は0.1μAとした。セメント、骨材の化学組成、鉱物組成、ブレーン比表面積をTable 1に示す。

 普通型エコセメントの鉱物組成はボーグ式を用いて求めた。速硬型エコセメントの鉱物組成は主な相がC3S, C2S, C11A7・CaCl2, C4AFであると仮定して次式により算出した。

%C3S = 4.071 CaO - 2.852 SO3 - 7.602 SiO2 - 5.718 Fe2O3 - 3.519 Al2O3 - 3.220 Cl + 3.683 Na2O + 2.424 K2O (2.1)
%C2S = 2.867 SiO2 - 0.7544 C3S      (2.2)
%C11A7・CaCl2 = 2.020 Al2O3 - 1.290 Fe2O3 (2.3)
% C4AF = 3.043 Fe2O3           (2.4)

式(2.1)でNa2OとK2Oの項は、Na2OとK2Oがカルシウム化合物と反応してCaOを放出するためである。また、MgOによる同様の反応は進行しないと考えて計算に含めなかった。これは後でResults and Discussionで述べるようにMgOは独立して存在していることがわかったからである。

Table 1 セメント、骨材の化学組成、及び鉱物組成。Chemical and mineralogical compositions of the cements and the aggregates. NPC, normal Portland cement, 標準ポルトランドセメント; NEC, normal-type ecocement,普通型エコセメント; REC, rapid-hardening type ecocement,速硬型エコセメント; SS, Sintered sewage sludge,溶融下水汚泥.


■ 結果と考察 Results and Discussion

 Fig. 1(a)-(d)に観察される白い部分は未水和のカルシウムシリケートの粒子である。Fig.2(a)-(d)の元素マッピングの結果を見ても、その領域のカルシウム、シリコンの組成が大きいことが見てとれる。ナトリウムの分布が未水和カルシウムシリケートと一致することがわかった。これは水和後でも、ほとんどのナトリウムが未水和のカルシウムシリケート中に固溶して存在することを示している。しかし、マグネシウムの分布は、カルシウムシリケートや塩素と一致せず、鉄の分布と一部が一致している。これはマグネシウムがC54S16AMのようなカルシウムシリケートの固溶体として存在したり、塩化物を生成したりせず、ペリクレーズMgOやブル−サイトMg(OH)2、C4AFの固溶体と言った形で存在していることを示している。

 さらに興味深いことに、標準ポルトランドセメントを用いた場合では、水/セメント比が約0.4以上で、骨材の周囲に主に水酸化カルシウムから成るポーラスなカルシウム比の高い部分が形成されるが、水/セメント比0.5の本エコセメント試料ではそれが観察されなかった。これは遷移帯がエコセメントでは形成されていないことを意味する。これはエコセメントのカルシウム組成が小さいためと考えられ、水和で生成した水酸化カルシウムが容易にエトリンガイトへと変化するからである。

 骨材・セメントペースト界面に遷移帯が形成されていないことは、標準砂を用いた場合、エコセメントが標準ポルトランドセメントに遜色のない強度を発現した事実とも整合している。


Fig. 1(a)(b) モルタル硬化体の背面反射電子像 (左)普通型エコセメントと標準砂 (右)速硬型エコセメントと標準砂 Back-scattered electron images of hardened mortars. Left, normal-type ecocement and standard sand; right, rapid-hardening type ecocement and standard sand.


Fig. 1(d) モルタル硬化体の背面反射電子像 (左)普通型エコセメントと溶融下水汚泥 (右)速硬型エコセメントと溶融下水汚泥 Back-scattered electron images of hardened mortars. Left, normal-type ecocement and sintered sewage sludge; right, rapid-hardening type ecocement and sintered sewage sludge.

 速硬型エコセメントはClを0.89%、SO3を8.45%含有している。これはFig.2(b),(d)を見ても確認できる。カルシウムシリケートの部分は塩素をほとんど含有せず、このことはアリナイトC3S・CaCl2やC2S・CaCl2などの化合物をほとんど形成していないことを示している。未水和のカルシウムシリケート粒子のサイズは速硬型の方が小さく、速硬型の方が高い水和活性を有していることがわかる。この水和活性の違いが鉱物組成、結晶構造の違いによるものなのか、比表面積の違いによるものなのかは今後の検討を要する。

 塩素の分布は硫黄やアルミニウムの分布とほぼ一致した。塩素濃度の高い領域に注目し、その領域での濃度を見積もると塩素1.5%、硫黄5%、アルミニウム9%、カルシウム約30%であった。これは水和生成物に関して重要な知見となる。エトリンガイト3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O中のアルミニウムと硫黄の組成はそれぞれ4.3%と7.7%であり、モノサルフェート水和物3CaO・Al2O3・CaSO4・12H2Oではそれぞれ8.7%と5.1%である。塩素濃度の高い領域における化学組成はエトリンガイトよりもモノサルフェート水和物に近いことがわかる。これは硫黄がほとんどモノサルフェート水和物となって存在していることを示唆している。

 また、フリーデル氏塩3CaO・Al2O3・CaCl2・10H2O中の塩素の化学組成は12.7%であり、塩素濃度の高い領域での塩素濃度は1.5%だから、両者の割り算からその領域では、およそ10%強のフリーデル氏塩が存在していると見積もられる。これらの結果から、水和のスキームは次のように考えられる。水との混合により、石コウとカルシウムクロロアルミネートC11A7・CaCl2が反応してエトリンガイトが生成する。エトリンガイトは時間の経過とともにモノサルフェート水和物に変化する。このモノサルフェートの内、10%強がC11A7・CaCl2から放出された塩素と反応しフリーデル氏塩となる。

 Fig.2(c),(d)を見てわかるように溶融下水汚泥を骨材に用いた場合の界面は、標準砂の場合に比べて極めて平滑である。この平滑性は焼成後、水冷時にガラス相を析出するためである。遷移帯がないことは強度にプラスに寄与するものの、界面の平滑性のために付着力が低下し、強度、特に曲げ強度の低下をもたらすと考えられる。溶融下水汚泥を用いた場合でも、標準砂を用いた場合と同様の元素分布が観察されている。このことは溶融下水汚泥からセメントの水和に影響を与える物質が溶出しないことを示している。


Fig. 2(a) 普通型エコセメントと標準砂から作ったモルタル硬化体の元素マッピング (左)O, Si, S, Ca, Na, Al (右)K, Cl, Fe, Mg X-ray image maps of hardened mortar prepared from normal-type ecocement and standard sand. Left, O, Si, S, Ca, Na, Al; right, K, Cl, Fe, Mg.


Fig. 2(b) 速硬型エコセメントと標準砂から作ったモルタル硬化体の元素マッピング (左)O, Si, S, Ca, Na, Al (右)K, Cl, Fe, Mg X-ray image maps of hardened mortar prepared from rapid-hardening type ecocement and standard sand. Left, O, Si, S, Ca, Na, Al; right, K, Cl, Fe, Mg.


Fig. 2(c) 普通型エコセメントと溶融下水汚泥から作ったモルタル硬化体の元素マッピング (左)O, Si, S, Ca, Na, Al (右)K, Cl, Fe, Mg X-ray image maps of hardened mortar prepared from normal-type ecocement and sintered sewage sludge. Left, O, Si, S, Ca, Na, Al; right, K, Cl, Fe, Mg.


Fig. 2(d) 速硬型エコセメントと溶融下水汚泥から作ったモルタル硬化体の元素マッピング(左)O, Si, S, Ca, Na, Al (右)K, Cl, Fe, Mg X-ray image maps of hardened mortar prepared from rapid-hardening type ecocement and sintered sewage sludge. Left, O, Si, S, Ca, Na, Al; right, K, Cl, Fe, Mg.

■ 結論 Conclusions

 エコセメントと廃棄物起源骨材である溶融下水汚泥(水砕)を用い、モルタル硬化体を調製し、強度と微細構造を調べた。その結果、以下のことがわかった。

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update July 2, 2001