はじめに
光は、茸の子実体形成の様々な過程に関与する。一般に、ハラタケ目の茸の多くは傘の発達・展開に青色光を必要とし、暗黒下では柄の徒長が起こり傘の未発達な子実体となることが知られている。これまでに我々は、なめこ(Pholiota nameko: ハラタケ目)を用いて生体電位変化の光波長依存性について解析した結果、光刺激により生体電位が変化し、特に青色光刺激で最大値を示すことを明らかにしている(図1)。しかしながら、青色光がなめこの形態形成にどのような影響を及ぼすのか、また、その影響がどのような分子的機構によるのかは不明なので、本研究で検討した。
図1. なめこの生体電位の波長依存性の一例
なめこに電極を刺し、異なる波長の光刺激を、明暗刺激のインターバルを30分にして
生体電位を連続測定した。dONは光刺激を与えたときの生体電位変化量を表す。
実験方法と結果
なめこの子実体原基を蛍光灯、青色発光ダイオード(LED、l= 468 nm)、緑色LED(l= 527 nm)、赤色LED(l= 660 nm)、紫外光(l= 254 nm)及び暗黒下で18℃、光量6W/ m2で一週間生育させ、子実体の生長を調べた。結果を図2に示す。青色LEDと蛍光灯下で生育させたなめこでは、著しい傘の発達が観察される。それに対して、赤色LED及び暗黒下で生育させたなめこは柄が太く徒長し、傘が未発達であった。緑色LED下で生育させたなめこの形態は、青色LED下で生育させたなめこと赤色LED下で生育させたなめこの中間型であった(図は省略)。このことから、なめこにおいても他のハラタケ目のきのこと同様に、青色光が子実体の発達に必要であることが判った。
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図2. なめこの生育における波長依存性
A. 生育開始時、B. 生育一週間後。図中のなめこはそれぞれ蛍光灯、
青色LED、赤色LED 、暗黒下で生育させたものを示す。
これらの条件で生育させたなめこの傘を用いて Differential Display法による解析を行ったところ、PCRプライマーの種類に応じたバンドパターンが検出された。一例を図3に示す。サンプル間でバンドパターンに差が見られたので、今後はこれらのPCR産物の解析を行う予定である。
図3. 異なる波長光で生育させたなめこの Differential Display解析
蛍光灯、青色LED、赤色LED、暗黒下で生育させたなめこの傘から mRNAを単離し、ランダムプライマーを用いて逆転写を
行った後、5’-GGNRXXGATC-3’(XXに相当する塩基を図中のプライマーに示す)から成るプライマーを用いてPCRを行い、
増幅DNAをポリアクリルアミドゲル上で分離した。矢印はサンプル間で差があるバンドを示す。
まとめ
1. なめこの子実体の発達には青色光が効果的であった。この結果は、なめこに光刺激を与えたときに発生する生体電位変化が、青色光刺激で最大値を示すという、これまでの結果に関連付けられる。
2. 青色光下で生育させたなめこの傘における遺伝子発現パターンは、蛍光灯下で生育させたなめこの傘の発現パターンと似ていた。また、赤色効果で生育させたなめこの傘の遺伝子発現パターンは、暗黒下で生育させたなめこの傘の発現パターンに酷似していた。これらの結果は、青色光と蛍光灯下で生育させたなめこの傘が発達し、対照的に赤色光及び暗黒下で生育させたなめこの傘が未発達であった結果に対応する。
研究目的
本研究では、なめこの子実体形成の分子機構を解明することを目的として、光依存的ななめこ子実体の形態の違いがどのような発現遺伝子の違いによるものなのかを調べるために、様々な波長光照射と暗状態で生育させた子実体形成初期のなめこを用いてDifferential Display(DD)による解析を行っている。なお、実験方法は上記と同じ方法を用いている。
![]() 蛍光灯(白色光) |
![]() 青色光 |
![]() 赤色光 |
![]() 暗状態 |
子実体形成初期のなめこ